災害への備えと防災訓練
災害は「いつか来るかもしれない」ものではなく、「いつ来てもおかしくない」ものです。その時、電話は通じず、電気も止まる混乱の中、子どもたちの命を守れるのは、その場にいる私たちだけです。この記事では、最大の敵である「パニック」に打ち勝ち、組織の一員として冷静に行動するための具体的な手順を学びます。私たちの今日の準備が、子どもたちの未来を守る最後の砦となります。
1. 敵を知り、己を知る:災害種別ごとの初期行動
災害によって、取るべき行動は異なります。まずは、主な災害ごとの鉄則となる初期行動を体に染み込ませましょう。
① 地震
DROP! COVER! HOLD ON!
- まず低く! (DROP!)
- 頭を守り! (COVER!)
- 動かない! (HOLD ON!)
② 火災
煙を吸わない!
- 大声で火事を知らせる
- 姿勢を低くする
- ハンカチで口と鼻を覆う
③ 水害
早めの垂直避難!
- 気象情報・避難情報を確認
- 浸水前に施設の2階以上へ
- 低い場所から離れる
2. すべての子どもを守るために:災害時要配慮児への支援
災害時、特に困難な状況に置かれる子どもたちがいます。これらの配慮は、災害時に「考える」のではなく、事前に「決めておく」ことが重要です。一人ひとりの顔を思い浮かべ、個別の支援計画を具体的に準備しましょう。
🔌 医療的ケア児
- 電源の確保: 医療機器のためのポータブル電源を準備し、定期的に充電状況を確認します。
- 衛生環境の確保: 停電・断水時でも衛生的なケアができるよう、消毒用品や清浄綿などを多めに備蓄します。
- ケア用品の優先確保: カテーテルやガーゼなど、命に直結するケア用品は非常持出袋の中でも最優先で準備します。
🍎 アレルギーのある子
- 備蓄食のダブルチェック: その子が食べられる備蓄食を、必ず複数人で指差し確認します。誤食は命に関わります。
- 情報共有の徹底: 緊急時個別対応票のコピーを非常持出袋に入れ、誰でも対応できるようにします。
- 誤食防止の仕組み: 支援物資などを受け取る際も、必ず原材料を確認するルールを徹底します。
🎧 パニック・感覚過敏のある子
- 刺激からの保護: イヤーマフやサングラス、マスク等を準備し、避難所の騒音や光、匂いから守ります。
- 安心できる空間の確保: パーテーションやテント、なければ段ボールなどを活用し、視覚情報が遮られた狭い空間を確保します。
- 見通しを伝える: 「次は〇〇公園に逃げるよ」など、写真や絵カードで次の行動を伝え、不安を軽減します。
♿ 車椅子や歩行困難な子
- 避難経路の事前確認: 車椅子で通れるか、段差や危険箇所はないか、実際に歩いて経路を確認しておきます。
- 支援担当者の明確化: 「誰が」「どのように」支援するのか、第一担当者、第二担当者を事前に決めておきます。
- 福祉避難所の把握: 一般の避難所での生活が困難な場合に備え、地域の福祉避難所の場所と連絡先を把握しておきます。
3. 「つながり」の確保:安否確認と引き渡しルール
混乱時の二次災害を防ぐため、厳格なルールに基づいて子どもたちの安全を確保します。
安否確認の方法
電話は通じない前提で、複数の手段を準備します。
- 一斉メール配信システム
- 事業所の公式SNS
- 災害用伝言ダイヤル(171)
引き渡しの鉄則
パニックや連れ去りを防ぐための「約束」です。
- 事前登録された保護者にのみ引き渡す
- 必ず「引き渡しカード」に署名をもらう
- 保護者が来られない場合は事業所で保護を継続
4. 子どもの心を守る:災害後の心のケア(PFAの基本)
建物の安全確保と同じくらい、子どもの「心の安全」を守ることも私たちの重要な役割です。災害という強いストレスを体験した子どもは、様々な反応を示します。専門家ではありませんが、私たちにできる「心の応急手当(サイコロジカル・ファーストエイド)」があります。
心の応急手当 3つの基本要素
見る (Look)
安全・安心の確認
- 怪我はないか?
- 安全な場所にいるか?
- 水や食べ物は足りているか?
- 強い恐怖や混乱を示している子はいないか?
聴く (Listen)
気持ちに寄り添う
- 無理に話させない。
- 話したがる子のそばで、静かに耳を傾ける。
- 「うん、うん」「そうだったんだね」と相槌を打つ。
- 声かけ例: 「怖かったね」「不安だったね」
つなぐ (Link)
安心できる情報と人へ
- 正確で、子どもが理解できる情報を伝える。
- 家族と連絡が取れるよう手伝う。
- 必要に応じて専門機関の情報を提供する。
- 声かけ例: 「もう大きな揺れは来ないから大丈夫だよ」「お母さんと連絡が取れるように手伝うね」
【重要なこと】私たちはカウンセラーではありません。深刻な心の傷が疑われる場合は、無理に対応しようとせず、速やかに行政の相談窓口や医療機関などの専門家へ「つなぐ」ことが最も大切な役割です。
5. 命をつなぐ「備え」:備蓄品の確認
ライフラインが停止しても最低3日間生き延びるため、どこに、何が、どれくらいあるか、全員が把握しておく必要があります。
| 品目 | 数量の目安 |
|---|---|
| 飲料水 | 1人1日3リットル × 人数 × 3日分 |
| 食料 | アレルギーに配慮した非常食 |
| 簡易トイレ | 1人1日5回 × 人数 × 3日分 |
| 衛生用品・救急セット | おむつ、生理用品、消毒液など |
研修の振り返り:自助 → 共助
私たちが子どもたちを守るためには、まず、自分と自分の家族が無事であることが大前提です。プロとして子どもを守るためには、まず一人の人間として、自分と家族を守る備えを万全にすることが不可欠です。
- 自宅の近くの避難場所を知っていますか?
- 家族との間で、災害時の安否確認の方法を決めていますか?
- 自宅に最低1日分の水と食料の備蓄はありますか?
児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ
職員研修にご使用いただけるように、研修用テキスト資料と講師原稿を配布しております。
こちらからダウンロードしてください。
支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

コメント