基礎研修 第16回:災害への備えと防災訓練

災害への備えと防災訓練

災害は「いつか来るかもしれない」ものではなく、「いつ来てもおかしくない」ものです。その時、電話は通じず、電気も止まる混乱の中、子どもたちの命を守れるのは、その場にいる私たちだけです。この記事では、最大の敵である「パニック」に打ち勝ち、組織の一員として冷静に行動するための具体的な手順を学びます。私たちの今日の準備が、子どもたちの未来を守る最後の砦となります。

目次

1. 敵を知り、己を知る:災害種別ごとの初期行動

災害によって、取るべき行動は異なります。まずは、主な災害ごとの鉄則となる初期行動を体に染み込ませましょう。

① 地震

DROP! COVER! HOLD ON!

  • まず低く! (DROP!)
  • 頭を守り! (COVER!)
  • 動かない! (HOLD ON!)

② 火災

煙を吸わない!

  • 大声で火事を知らせる
  • 姿勢を低くする
  • ハンカチで口と鼻を覆う

③ 水害

早めの垂直避難!

  • 気象情報・避難情報を確認
  • 浸水前に施設の2階以上へ
  • 低い場所から離れる

2. すべての子どもを守るために:災害時要配慮児への支援

災害時、特に困難な状況に置かれる子どもたちがいます。これらの配慮は、災害時に「考える」のではなく、事前に「決めておく」ことが重要です。一人ひとりの顔を思い浮かべ、個別の支援計画を具体的に準備しましょう。

🔌 医療的ケア児

  • 電源の確保: 医療機器のためのポータブル電源を準備し、定期的に充電状況を確認します。
  • 衛生環境の確保: 停電・断水時でも衛生的なケアができるよう、消毒用品や清浄綿などを多めに備蓄します。
  • ケア用品の優先確保: カテーテルやガーゼなど、命に直結するケア用品は非常持出袋の中でも最優先で準備します。

🍎 アレルギーのある子

  • 備蓄食のダブルチェック: その子が食べられる備蓄食を、必ず複数人で指差し確認します。誤食は命に関わります。
  • 情報共有の徹底: 緊急時個別対応票のコピーを非常持出袋に入れ、誰でも対応できるようにします。
  • 誤食防止の仕組み: 支援物資などを受け取る際も、必ず原材料を確認するルールを徹底します。

🎧 パニック・感覚過敏のある子

  • 刺激からの保護: イヤーマフやサングラス、マスク等を準備し、避難所の騒音や光、匂いから守ります。
  • 安心できる空間の確保: パーテーションやテント、なければ段ボールなどを活用し、視覚情報が遮られた狭い空間を確保します。
  • 見通しを伝える: 「次は〇〇公園に逃げるよ」など、写真や絵カードで次の行動を伝え、不安を軽減します。

車椅子や歩行困難な子

  • 避難経路の事前確認: 車椅子で通れるか、段差や危険箇所はないか、実際に歩いて経路を確認しておきます。
  • 支援担当者の明確化: 「誰が」「どのように」支援するのか、第一担当者、第二担当者を事前に決めておきます。
  • 福祉避難所の把握: 一般の避難所での生活が困難な場合に備え、地域の福祉避難所の場所と連絡先を把握しておきます。

3. 「つながり」の確保:安否確認と引き渡しルール

混乱時の二次災害を防ぐため、厳格なルールに基づいて子どもたちの安全を確保します。

安否確認の方法

電話は通じない前提で、複数の手段を準備します。

  • 一斉メール配信システム
  • 事業所の公式SNS
  • 災害用伝言ダイヤル(171)

引き渡しの鉄則

パニックや連れ去りを防ぐための「約束」です。

  • 事前登録された保護者にのみ引き渡す
  • 必ず「引き渡しカード」に署名をもらう
  • 保護者が来られない場合は事業所で保護を継続

4. 子どもの心を守る:災害後の心のケア(PFAの基本)

建物の安全確保と同じくらい、子どもの「心の安全」を守ることも私たちの重要な役割です。災害という強いストレスを体験した子どもは、様々な反応を示します。専門家ではありませんが、私たちにできる「心の応急手当(サイコロジカル・ファーストエイド)」があります。

心の応急手当 3つの基本要素

👀

見る (Look)

安全・安心の確認

  • 怪我はないか?
  • 安全な場所にいるか?
  • 水や食べ物は足りているか?
  • 強い恐怖や混乱を示している子はいないか?
👂

聴く (Listen)

気持ちに寄り添う

  • 無理に話させない。
  • 話したがる子のそばで、静かに耳を傾ける。
  • 「うん、うん」「そうだったんだね」と相槌を打つ。
  • 声かけ例: 「怖かったね」「不安だったね」
🔗

つなぐ (Link)

安心できる情報と人へ

  • 正確で、子どもが理解できる情報を伝える。
  • 家族と連絡が取れるよう手伝う。
  • 必要に応じて専門機関の情報を提供する。
  • 声かけ例: 「もう大きな揺れは来ないから大丈夫だよ」「お母さんと連絡が取れるように手伝うね」

【重要なこと】私たちはカウンセラーではありません。深刻な心の傷が疑われる場合は、無理に対応しようとせず、速やかに行政の相談窓口や医療機関などの専門家へ「つなぐ」ことが最も大切な役割です。

5. 命をつなぐ「備え」:備蓄品の確認

ライフラインが停止しても最低3日間生き延びるため、どこに、何が、どれくらいあるか、全員が把握しておく必要があります。

品目 数量の目安
飲料水 1人1日3リットル × 人数 × 3日分
食料 アレルギーに配慮した非常食
簡易トイレ 1人1日5回 × 人数 × 3日分
衛生用品・救急セット おむつ、生理用品、消毒液など

研修の振り返り:自助 → 共助

私たちが子どもたちを守るためには、まず、自分と自分の家族が無事であることが大前提です。プロとして子どもを守るためには、まず一人の人間として、自分と家族を守る備えを万全にすることが不可欠です。

  • 自宅の近くの避難場所を知っていますか?
  • 家族との間で、災害時の安否確認の方法を決めていますか?
  • 自宅に最低1日分の水と食料の備蓄はありますか?

児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ

職員研修にご使用いただけるように、研修用テキスト資料と講師原稿を配布しております。

こちらからダウンロードしてください。

支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次