基礎研修 第18回:遊びを通じた発達支援② 幼児期の遊び(3歳~学齢期)

「わたし」から「わたしたち」へ
〜遊びを通じた発達支援:幼児期から学齢期〜

「幼児期の子どもたちの遊びって、ただ楽しんでいるだけに見えるけど、どんな意味があるんだろう?」「ごっこ遊びやブロック遊びに、どう関わればいいのか分からない…」と悩んでいませんか?実は、この時期の遊びは、子どもたちが社会性や創造性、問題解決能力を育むための非常に重要な「学びの場」です。ごっこ遊び、構成遊び、ルールのある遊びといった代表的な遊びの発達段階を理解し、私たちの関わり方を少し工夫するだけで、子どもの成長を最大限に引き出すことができます。この記事では、幼児期から学齢期における遊びの重要性から、具体的な発達段階に応じた支援方法、さらには子ども同士の葛藤を学びの機会に変える介入のヒントまで、事例を交えて詳しく解説します。


目次

1. はじめに:「わたし」から「わたしたち」へ、遊びが社会を創り出す

乳児期の一人遊びや感覚遊びの世界から、子どもたちは仲間を意識し始め、「わたしたち」で遊ぶという新しいステージへと移行します。この時期の遊びは、単なる楽しみに留まりません。それは、子どもたちが言葉や想像力を駆使して、自分たちだけの小さな「社会」を創り出し、その中で社会のルールや人との関わり方を学んでいく、極めて高度な学びの場なのです。

この研修では、幼児期から学齢期へと続く代表的な3つの遊び「ごっこ遊び」「構成遊び」「ルールのある遊び」に焦点を当て、その中で育まれる力と、子どもの主体性を最大限に引き出すための、私たちの専門的な関わり方について学びます。


「わたし」
(一人遊び)


「わたしたち」
(仲間との遊び)

2. 社会性を育む壮大なドラマ:ごっこ遊びの世界

ごっこ遊びは、子どもが自分ではない誰かになりきり、イメージを仲間と共有しながら物語を展開していく遊びです。これは、「社会性を学ぶための壮大なリハーサル」と言えます。

《幼児期(3~5歳)のごっこ遊び》発達段階と私たちの役割

段階 年齢の目安 遊びの姿 私たちの専門的な役割
平行遊び 2~3歳頃 同じ場所で、同じようなおもちゃを使い、それぞれが遊んでいる。まだ直接的な関わりは少ない。 ・おもちゃの取り合いが起きないよう、同じ種類のおもちゃを複数用意する。
・「Aちゃんはお料理してるね」「B君もトントンしてるね」と、互いの存在を意識できるような実況中継をする。
連合遊び 3~4歳頃 「お店屋さんごっこ」など共通のテーマはあるが、役割は曖昧。それぞれが店員になったり客になったり、自由に出入りする。 ・「いらっしゃいませ!何が欲しいですか?」など、遊びが豊かになるような言葉をモデルとして示す。
・帽子やエプロン、お金などの小道具(プロップス)を用意し、イメージの世界を広げる手助けをする。
協同遊び 4~5歳頃 「病院ごっこ」などで、「私はお医者さん」「あなたは受付の人」「C君は患者さん」と役割を分担し、共通のストーリーに沿って遊ぶ。 ・基本的には見守ることに徹し、子どもの世界観を尊重する。
・子ども同士の葛藤が起きた時に、「どうすればいいかな?」と、子どもたち自身が解決策を考えられるよう、問いかけ、橋渡しをする。

ごっこ遊びが育む、生きる力の土台

  • 社会性・協調性 : 友達とイメージを共有し、役割を調整する中で、相手の気持ちを想像したり、自分の要求を伝えたり、折り合いをつけたりする力が育つ。
  • 言葉の力・コミュニケーション能力 : 役になりきって会話をすることで、語彙や表現力が豊かになる。
  • 想像力・創造力 : 目の前にないものをあるかのようにイメージし、物語を創り出す力が育つ。

《学齢期のごっこ遊び》より創造的なロールプレイングへ

学齢期になると、ごっこ遊びはより複雑で、より創造的な「ロールプレイング(役割なりきり)遊び」へと進化します。

遊びの姿

  • 物語性の深化 : アニメやゲームの世界観をベースに、自分たちでオリジナルのキャラクターやストーリーを創作する。(例:「探偵事務所ごっこ」)
  • 道具の自作 : 段ボールで精巧な武器やアイテムを作るなど、遊びの世界観を自分たちの手で具体化しようとする。
  • 抽象的なテーマ : 「アイドルグループのプロデュースごっこ」など、より社会性の高いテーマで遊ぶこともある。

私たちの専門的な役割

  • 世界観の理解者・共感者となる : 子どもの創り出した世界観に興味を示し、敬意を払う。
  • 環境の提供者となる : 子どもたちの創造意欲を刺激する素材(大きな段ボール、布、模造紙など)を豊かに提供する。
  • 高度な橋渡し役となる : より複雑になった葛藤を、子どもたち自身が創造的に解決できるよう支援する。

3. 世界を創造する喜び:構成遊び(積み木、ブロック等)

構成遊びとは、積み木、ブロック、粘土、空き箱など、形の定まっていない素材を使い、試行錯誤しながら新しい形や世界を創り出す遊びです。

《幼児期(3~5歳)の構成遊び》科学する心を育む

  • 空間認識能力 : ブロックを積む中で、重さ、バランス、対称性、立体といった、三次元空間の法則を体感的に学ぶ。
  • 科学的思考・問題解決能力 : 「どうすれば高く積めるか?」という仮説と検証(トライ&エラー)を繰り返す中で、論理的な思考力が育つ。
  • 集中力と持続力 : 「お城を完成させる」という目標に向かって、長時間遊びに没頭することで、集中力が養われる。
  • 創造性 : 何もないところから、自分のイメージを形にする創造の喜びを味わう。

私たちの専門的な関わり方

  • 指示や評価をしない : 「おうちを作ってごらん」「上手だね」といった大人の価値観の押し付けは、子どもの自由な発想を妨げる。
  • プロセス(過程)を言葉にする : 「すごく高く積んだね!」と、結果ではなく、その子の取り組み方や工夫を具体的に言葉にして認める。
  • オープンな問いかけ : 「これは何を作っているの?」ではなく、「なんだか面白そうなものができてきたね」と、子どもの世界観を尊重した問いかけをする。
  • 豊かな環境構成 : 多様な種類・数の積み木やブロック、空き箱など、子どもの創造意欲を刺激する様々な素材を用意する。

《学齢期の構成遊び》エンジニアリング&アートへ

遊びの姿

  • 機能性の追求 : 見た目だけでなく、「ちゃんとビー玉が転がるコース」など、機能や仕組みを持った作品を作ろうとする。
  • 再現性と計画性 : 設計図を描いたり、見本を忠実に再現したりするなど、計画に基づいて製作する。
  • 共同での大作 : 友達と協力し、数日かけて巨大な秘密基地や街を作るなど、大規模なプロジェクトに発展する。

私たちの専門的な役割

  • 専門的な素材と道具の提供 : より複雑な創作を可能にする、多様なブロックや工具、プログラミング教材などを提供する。
  • 技術的なコンサルタントとなる : 答えを教えるのではなく、解決のヒントや調べ方を一緒に探す伴走者となる。
  • 発表と共有の機会を作る : 作品を展示するスペースを設けたり、「作品発表会」を開いたりして、達成感や喜びを共有する。

4. 社会への第一歩:ルールのある遊びの導入

ルールのある遊びは、子どもたちが初めて出会う「社会の約束事」です。ルールを守ることで、みんなが楽しく遊べるという経験は、社会生活の基礎を築きます。

《幼児期(3~5歳)のルールのある遊び》育まれる力

  • 自己抑制(セルフコントロール) : 「動きたいけど、今は止まる」など、自分の衝動をルールに従ってコントロールする力が育つ。
  • 葛藤を乗り越える力 : 「負けて悔しい」という気持ちを経験し、それを受け入れて、次のゲームに臨む心の強さが育つ。

子どもが楽しめる「ルール」の伝え方 5つのステップ

1

ルールを極限まで単純化する : 最初は、最も重要なルール一つだけに絞る。

2

見てわかるように、やってみせる(モデリング) : 言葉で長く説明せず、まずは職員同士で楽しそうにやってみせる。

3

全員で一度やってみる(お試しプレイ) : 「まず、練習で一回やってみよう!」と伝え、勝敗を気にせず、遊びの流れを体験させる。

4

楽しむことを最優先する : 子どもたちがルールに縛られて楽しめていないようなら、ためらわずにルールをさらに簡単に変更する。

5

葛藤も学びの機会と捉える : 「タッチした」「してない」といったトラブルを頭ごなしに裁くのではなく、どうすればいいか一緒に考える機会とする。

《学齢期のルールのある遊び》戦略と交渉の世界へ

学齢期になると、「戦略(ストラテジー)」や「交渉」が加わり、より高度な社会的スキルが求められます。

遊びの姿

  • 戦略的な思考 : カードゲームやボードゲームで、「どうすれば勝てるか」という戦略を考えたり、相手の出方を予測したりする。
  • ルールの交渉と創造 : 既存のルールを自分たちがより楽しめるように交渉し、変更(ローカルルール作り)しようとする。
  • チームプレー : スポーツなどで、チームの勝利のために、自分の役割を理解し、仲間と協力するようになる。

私たちの専門的な役割

  • 多様なゲームの紹介者となる : 子どもたちの興味や発達段階に合わせて、様々な種類のゲームを紹介し、選択の幅を広げる。
  • 公正なファシリテーター(進行役)となる : ルールを巡るトラブルが起きた際に、両者の視点を整理し、全員が納得できる解決策を一緒に探す手伝いをする。
  • 「負け」を乗り越える支援 : 負けた悔しさを受け止めた上で、次への挑戦に繋げるポジティブな声かけをする。

【グループワーク】ケースで考える専門的な関わり

<ケース①:幼児向け>

あなたは、4歳児クラスで初めて「フルーツバスケット」を導入しようとしています。「ルールを伝える5つのステップ」に沿って、子どもたちが最大限に楽しめるような、具体的な導入計画をグループで立ててみましょう。

  • 最初に導入する、最も単純なルールは何ですか?
  • どのようにやってみせますか?(職員の役割分担など)
  • 子どもたちが混乱しそうな予測されるトラブルと、その時の対応方法を考えてみましょう。

<ケース②:放課後等デイサービス>

あなたは、小学3年生のグループ(4人)が、カードゲームで遊んでいるのを見ています。一人の子(A君)が、少し複雑なルールを間違えてしまい、他の子から「違うよ!ちゃんとやってよ!」と強く責められ、黙り込んでしまいました。場の空気が悪くなっています。

  • この状況に、あなたはどのように介入しますか?最初の声かけを具体的に考えてみましょう。
  • A君の気持ちと、他の子たちの気持ち、それぞれにどのように寄り添いますか?
  • このトラブルを、子どもたちの社会性を育む「学びの機会」に変えるために、どのような働きかけができますか?

児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ

職員研修にご使用いただけるように、研修用テキスト資料と講師原稿を配布しております。

こちらからダウンロードしてください。

支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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