基礎研修 第20回:支援記録の書き方【基礎】

プロの支援を「見える化」する記録術

「毎日の支援記録、何を書けばいいか分からない…」「ただの作業になってしまって、正直大変…」と感じていませんか?実は、記録の質は「事実」と「解釈」を分けるというたった一つのルールと、「5W1H」という便利な道具で劇的に変わります。この記事では、記録が持つ本当の目的を再確認し、誰が読んでも子どもの姿が目に浮かぶような、具体的で客観的な記録を書くための「黄金ルール」と「便利な道具」を、豊富な例文と共に分かりやすく解説します。


目次

未来へ繋ぐ、記録が持つ5つの重要な目的

私たちが書く一枚の記録には、少なくとも5つの重要な役割が込められています。この目的を意識することで、記録の質は格段に向上します。

目的 説明 なぜ重要か?(児発・放デイの視点)
① 発達の記録 子どもの日々の小さな変化や成長の軌跡を、客観的な事実として書き留める。 数ヶ月前、1年前の記録と見比べることで、個々の成長を具体的に把握できる。「できるようになったこと」を可視化し、支援の成果を確認できる。
② 指導計画への活用 記録された子どもの姿(事実)を根拠として、個別支援計画や指導計画の目標設定、見直しを行う。 「なんとなく」ではなく、根拠に基づいた(Evidence-Based)計画を立案できる。支援が計画通りに進んでいるか、修正が必要かを判断する材料になる。
③ 保護者との連携 連絡帳や面談の際に、記録に基づいた具体的なエピソードを交えて、子どもの様子を伝える。 「元気でした」という漠然とした報告ではなく、「今日、お友達に『かして』と言えましたよ」と具体的に伝えることで、説得力と信頼感が増す。家庭と事業所が、子どもの姿を共有し、連携して支援するための共通の土台となる。
④ 職員間の情報共有 担当者やシフトが違っても、チーム全員が、その子の状況について同じレベルの情報を共有する。 一貫性のある支援を提供できる(A先生とB先生で言うことが違う、という事態を防ぐ)。パート職員や新しい職員も、すぐに子どもの状況を把握できる。チームとして、多角的な視点から子どもを理解する助けになる。
⑤ 法的根拠としての重要性 万が一の事故や、保護者とのトラブルが発生した際に、適切な支援を行っていたことを証明する公的な記録となる。 支援者の正当な実践を守る、最も強力な証拠となる。行政監査などにおいても、サービスの質を証明する重要な資料となる。

記録の黄金ルール:『事実』と『解釈』を分離する

専門的な記録を書く上で、最も重要で、絶対に守らなければならないルール。それが「客観的な事実」と「主観的な解釈」を、明確に分けて書くことです。


客観的な事実 (Fact)

ビデオカメラで撮影できる、ありのままの出来事。誰が見ても同じように認識できる、具体的な「行動」や「発言」。


主観的な解釈 (Interpretation)

その事実に対して、支援者であるあなたが、どう感じ、どう考え、どう分析したか。専門的な「気づき」や「推測」。


良くない記録(事実と解釈が混在)

良い記録(事実と解釈が分離)
A君は、B君に意地悪をしたくてわざとおもちゃを奪った。B君は悲しくて悔しそうに泣いていた。 【事実】

B君が遊んでいた赤いブロックを、A君が「かして」と言わずに手で取った。B君はA君を見て、眉をひそめ、下唇を出し、「うわーん」と声を出して泣き始めた。

【解釈・考察】

A君は、B君の持っていたブロックに強い興味を示しており、使いたいという気持ちを言葉で伝える前に行動に移してしまったと思われる。B君は、突然おもちゃを取られたことに驚き、悲しい気持ちになったと考えられる。A君には「かして」という言葉での伝え方を、B君には「いやだ」という気持ちの表現を、今後伝えていく必要がある。

【重要】解釈を書くことが悪いわけではありません。むしろ、専門職としての気づき(解釈)は、次の支援を考える上で非常に重要です。問題なのは、事実と解釈がごちゃ混ぜに書かれていることです。

記録を鮮やかにする道具:5W1Hを用いた具体的記述

誰が読んでも、その場の光景が目に浮かぶような、具体的で分かりやすい記録を書くための便利な道具が「5W1H」です。

When(いつ):2025年〇月〇日 10時15分頃
Where(どこで):プレイルームのブロックコーナーで
Who(誰が):A君が、B君に
What(何を):B君が持っていた赤いブロックを取った
Why(なぜ):自分もそのブロックで遊びたくなったためと思われる。(解釈)
How(どのように):無言で、素早い動きでブロックを奪うように取った

【実践練習】記録作成演習

<シナリオ>

  • 日時・場所: 10月28日 15時15分頃、おやつの時間
  • 登場人物: Cちゃん(4歳)、D君(4歳)

テーブルには、クッキーがそれぞれ3枚ずつ配られている。Cちゃんは自分のクッキーを2枚食べた。隣の席のD君は、まだ1枚も食べていない。Cちゃんは、D君のお皿に手を伸ばし、クッキーを1枚取って、自分の口に入れた。D君は、Cちゃんの手の動きを目で追い、クッキーが食べられた後、職員の方を見て、何も言わずに少し目を見開いた。職員が「Cちゃん」と声をかけると、Cちゃんは口をもぐもぐさせながら、ニコッと笑った。

<演習のステップ>

  1. まず、この場面の「客観的な事実」だけを、5W1Hを意識して書き出してみましょう。
  2. 次に、その事実に対するあなたの「主観的な解釈・考察」を、事実とは明確に分けて書き出してみましょう。
  3. グループで、それぞれが書いた記録を共有し、事実と解釈がきちんと分離できているか、5W1Hが盛り込まれているか、相互にチェックし合いましょう。

児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ

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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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