基礎研修 第9回:発達障害の基礎知識① 自閉スペクトラム症(ASD)

発達障害の基礎知識①自閉スペクトラム症(ASD)


目次

1. はじめに:高性能な「翻訳機」を持って、世界を旅しよう

自閉スペクトラム症(ASD)は、治すべき「病気」や本人の努力不足が原因の「問題」ではありません。生まれ持った脳機能の特性による、その人ならではの世界の見え方・感じ方です。
世の中の多くの人が「日本語」を話す脳だとしたら、ASDのある人は「英語」など少し違う言語を話す脳のイメージ。どちらが優れているわけではなく、ただ使う「言語」が違うだけなのです。
私たちの役割は、彼らの言語や文化を正しく理解し、私たちの言葉を彼らに分かりやすく伝えるための「高性能な翻訳機(支援ツール)」を持つことです。

私たちの役割

🧠

多数派の脳(日本語)

🛠️

高性能な翻訳機

(適切な支援)

🌍

ASDのある人の脳(英語など)

2. 自閉スペクトラム症(ASD)とは?

ASDは、①対人関係や社会的なコミュニケーションの特性と、②限定された興味やこだわり、感覚の特性によって定義される、生まれつきの発達障害の一つです。

【豆知識】スペクトラムってどういう意味?

「スペクトラム」とは、「連続体」という意味です。特性の現れ方は一人ひとり全く異なり、虹の色のようにグラデーション状に広がっています。「ASDの人はこうだ」という画一的なイメージは存在しません。

ASDのスペクトラム

特性A
特性B
特性C
特性D

特性の現れ方や強さは人それぞれで、虹のように連続しています。

ASDの主な3つの特性

👥

① 社会性の特性

暗黙のルールを直感的に読み取ることが難しい。悪気なく思ったことをそのまま言ってしまうことも。

  • 視線を合わせるのが苦手
  • 冗談や皮肉が分かりにくい
  • 相手の気持ちの想像が難しい
  • 一人でいることを好むように見える
💬

② コミュニケーションの特性

言葉を文字通りに解釈し、裏にある意図を推測するのが難しい。会話が一方的になりやすい。

  • オウム返し(エコラリア)
  • 好きなことを一方的に話す
  • 曖昧な指示の理解が難しい
  • 独特な話し方をすることがある
🧩

③ 想像力の特性とこだわり

見通しが立たないことや急な変更に強い不安を感じる。決まった手順やルールが安心に繋がる。

  • 同じ手順や道順を好む
  • 特定の物に強い興味を持つ
  • 常同行動(スティミング)で落ち着く

3. 世界はこんな風に見えている?:感覚の特性

ASDのある人の多くは、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)などが通常よりも非常に敏感だったり(感覚過敏)、逆に非常に鈍感だったり(感覚鈍麻)します。これは「わがまま」ではなく、彼らにとっての世界の感じ方そのものです。

感覚 感覚過敏(かびん)の例 感覚鈍麻(どんま)の例 私たちができる支援の例
聴覚 👂 掃除機の音や赤ちゃんの泣き声が、耐えられないほどの轟音に聞こえる。 大きな物音がしても平気。自分の名前を呼ばれても気づきにくい。 イヤーマフや耳栓の使用を認める。静かに過ごせるクールダウン・スペースを用意する。
視覚 👀 蛍光灯の光がチカチカして眩しい。カラフルな壁面装飾が情報過多で混乱する。 光るものや、くるくる回るものをじっと見つめ続けるのが好き。 照明を調整する(暖色系のライトなど)。掲示物はシンプルにする。
触覚 🖐️ 特定の素材の服を嫌がる。人に軽く触れられるだけで、叩かれたように感じてしまう。 痛みに気づきにくい(怪我をしても平気なことがある)。ぎゅーっと強く抱きしめられるのを好む。 服のタグを切る。触れる前には必ず「〇〇さん、触るよ」と声をかける。重い布団やクッションを用意する。
味覚・嗅覚 👅👃 匂いに敏感で、給食の匂いが苦手。特定の食感のものしか食べられない(極端な偏食)。 強い味付けのものを好む。危険なものでも口に入れてしまうことがある。 無理強いせず、食べられるものから栄養を考える。食器や場所を変える工夫をする。

4. 私たちができる支援の基本原則

ASDの特性を理解した上で、私たちができる支援には3つの大きな柱があります。

🖼️

① 見てわかるように伝える
(視覚的支援)

言葉は消えるが、絵や文字は残る。口頭指示が苦手な子にとって、視覚情報は最も安心できるコミュニケーション手段です。

  • 絵カードスケジュール
  • 手順書(写真やイラスト)
  • ソーシャルストーリー
🏠

② 環境を整え、安心できる場所を作る
(構造化)

見通しが立たない曖昧な状況が苦手。物理的な環境を分かりやすく整えることで、安心して過ごせるようになります。

  • 空間の構造化(パーテーション等)
  • 時間の構造化(タイマー等)
❤️

③ その子の「好き」を入り口にする
(肯定的な関わり)

「できないこと」を訓練するのではなく、「できること」「好きなこと」を伸ばし、関係を築き、学びを広げます。

  • 強みを活かす
  • 具体的に褒める
  • 否定語を使わない(肯定的な言葉で)

グループワーク:事例検討

事例

ASDの特性があるA君。いつもと違う道順で公園に散歩に行くことを伝えた途端、耳をふさいで大声で叫び始め、パニックになってしまいました。

<話し合いのポイント>

  • A君のパニックの背景には、どのようなASDの特性(社会性、コミュニケーション、想像力、感覚)が関係していると考えられますか?
  • この状況で、あなたがA君に対してできる緊急的な対応はどのようなものですか?
  • 今後、同じような状況を防ぐために、事前にできる支援(視覚的支援や構造化)はどのようなものがありますか?

児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ

職員研修にご使用いただけるように、研修用テキスト資料と講師原稿を配布しております。

こちらからダウンロードしてください。

支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次