発達障害の基礎知識①自閉スペクトラム症(ASD)
1. はじめに:高性能な「翻訳機」を持って、世界を旅しよう
自閉スペクトラム症(ASD)は、治すべき「病気」や本人の努力不足が原因の「問題」ではありません。生まれ持った脳機能の特性による、その人ならではの世界の見え方・感じ方です。
世の中の多くの人が「日本語」を話す脳だとしたら、ASDのある人は「英語」など少し違う言語を話す脳のイメージ。どちらが優れているわけではなく、ただ使う「言語」が違うだけなのです。
私たちの役割は、彼らの言語や文化を正しく理解し、私たちの言葉を彼らに分かりやすく伝えるための「高性能な翻訳機(支援ツール)」を持つことです。
私たちの役割
多数派の脳(日本語)
高性能な翻訳機
(適切な支援)
ASDのある人の脳(英語など)
2. 自閉スペクトラム症(ASD)とは?
ASDは、①対人関係や社会的なコミュニケーションの特性と、②限定された興味やこだわり、感覚の特性によって定義される、生まれつきの発達障害の一つです。
【豆知識】スペクトラムってどういう意味?
「スペクトラム」とは、「連続体」という意味です。特性の現れ方は一人ひとり全く異なり、虹の色のようにグラデーション状に広がっています。「ASDの人はこうだ」という画一的なイメージは存在しません。
ASDのスペクトラム
特性B
特性C
特性D
特性の現れ方や強さは人それぞれで、虹のように連続しています。
ASDの主な3つの特性
① 社会性の特性
暗黙のルールを直感的に読み取ることが難しい。悪気なく思ったことをそのまま言ってしまうことも。
- 視線を合わせるのが苦手
- 冗談や皮肉が分かりにくい
- 相手の気持ちの想像が難しい
- 一人でいることを好むように見える
② コミュニケーションの特性
言葉を文字通りに解釈し、裏にある意図を推測するのが難しい。会話が一方的になりやすい。
- オウム返し(エコラリア)
- 好きなことを一方的に話す
- 曖昧な指示の理解が難しい
- 独特な話し方をすることがある
③ 想像力の特性とこだわり
見通しが立たないことや急な変更に強い不安を感じる。決まった手順やルールが安心に繋がる。
- 同じ手順や道順を好む
- 特定の物に強い興味を持つ
- 常同行動(スティミング)で落ち着く
3. 世界はこんな風に見えている?:感覚の特性
ASDのある人の多くは、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)などが通常よりも非常に敏感だったり(感覚過敏)、逆に非常に鈍感だったり(感覚鈍麻)します。これは「わがまま」ではなく、彼らにとっての世界の感じ方そのものです。
| 感覚 | 感覚過敏(かびん)の例 | 感覚鈍麻(どんま)の例 | 私たちができる支援の例 |
|---|---|---|---|
| 聴覚 👂 | 掃除機の音や赤ちゃんの泣き声が、耐えられないほどの轟音に聞こえる。 | 大きな物音がしても平気。自分の名前を呼ばれても気づきにくい。 | イヤーマフや耳栓の使用を認める。静かに過ごせるクールダウン・スペースを用意する。 |
| 視覚 👀 | 蛍光灯の光がチカチカして眩しい。カラフルな壁面装飾が情報過多で混乱する。 | 光るものや、くるくる回るものをじっと見つめ続けるのが好き。 | 照明を調整する(暖色系のライトなど)。掲示物はシンプルにする。 |
| 触覚 🖐️ | 特定の素材の服を嫌がる。人に軽く触れられるだけで、叩かれたように感じてしまう。 | 痛みに気づきにくい(怪我をしても平気なことがある)。ぎゅーっと強く抱きしめられるのを好む。 | 服のタグを切る。触れる前には必ず「〇〇さん、触るよ」と声をかける。重い布団やクッションを用意する。 |
| 味覚・嗅覚 👅👃 | 匂いに敏感で、給食の匂いが苦手。特定の食感のものしか食べられない(極端な偏食)。 | 強い味付けのものを好む。危険なものでも口に入れてしまうことがある。 | 無理強いせず、食べられるものから栄養を考える。食器や場所を変える工夫をする。 |
4. 私たちができる支援の基本原則
ASDの特性を理解した上で、私たちができる支援には3つの大きな柱があります。
① 見てわかるように伝える
(視覚的支援)
言葉は消えるが、絵や文字は残る。口頭指示が苦手な子にとって、視覚情報は最も安心できるコミュニケーション手段です。
- 絵カードスケジュール
- 手順書(写真やイラスト)
- ソーシャルストーリー
② 環境を整え、安心できる場所を作る
(構造化)
見通しが立たない曖昧な状況が苦手。物理的な環境を分かりやすく整えることで、安心して過ごせるようになります。
- 空間の構造化(パーテーション等)
- 時間の構造化(タイマー等)
③ その子の「好き」を入り口にする
(肯定的な関わり)
「できないこと」を訓練するのではなく、「できること」「好きなこと」を伸ばし、関係を築き、学びを広げます。
- 強みを活かす
- 具体的に褒める
- 否定語を使わない(肯定的な言葉で)
グループワーク:事例検討
事例
ASDの特性があるA君。いつもと違う道順で公園に散歩に行くことを伝えた途端、耳をふさいで大声で叫び始め、パニックになってしまいました。
<話し合いのポイント>
- A君のパニックの背景には、どのようなASDの特性(社会性、コミュニケーション、想像力、感覚)が関係していると考えられますか?
- この状況で、あなたがA君に対してできる緊急的な対応はどのようなものですか?
- 今後、同じような状況を防ぐために、事前にできる支援(視覚的支援や構造化)はどのようなものがありますか?
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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