いつもより元気のないAちゃん。好きなおやつも半分残している。「どうしたんだろう」と思いながらも、他の子の対応で手が離せない。先輩に声をかけようかと思ったけれど、忙しそうで言い出せなかった——そんな経験、ありませんか?
「こんなこと聞いていいのかな」「自分でなんとかしなきゃ」。そう感じて一人で抱え込んでしまう指導員は、決して少なくありません。でも、その「一人で抱える習慣」が、気づかないうちに子どもたちのSOSを見落とすことに繋がることがあるのです。
今回は、チームで働くことの本質的な意味を、現場の視点から一緒に考えてみます。
なぜ「チームワーク」が、この現場で特別に重要なのか
児童発達支援・放課後等デイサービスで関わる子どもたちは、一般の子どもに比べて虐待リスクが約3〜4倍高いと言われています。
その背景には、「言葉でうまく伝えられない」「自分に起きていることを誰かに打ち明けることが難しい」という、障がい特性ゆえの脆弱性があります。
ASDの子どもは感情を言語化することが苦手なことが多く、ADHDの子どもは「話を聞いてもらえない経験」を積み重ねていることもある。知的障がいのある子どもは、「これは言っていいことなのかわからない」と感じていることもある。
だからこそ、一人の目では足りないのです。
複数の視点が集まることで、「あの子、最近家でなにかあったんじゃないか」という小さな気づきが生まれます。一人では見落とすかもしれないSOSのサインを、チームは捉えることができます。
「障がい特性だから」で終わらせない——変化に気づくチームの目
困った行動や不調が続いているとき、つい「この子の特性だから」と判断してしまうことがあります。もちろん障がい特性として理解することは大切ですが、「変化」には要注意です。
・いつも食べる給食やおやつを残すようになった
・特定の曜日だけ表情が暗い、登所を嫌がる
・急に以前できていたことをやらなくなった
・特定の人のそばに行きたがらない、怖がる
・身体に説明のつかないあざや傷がある
これらは「障がい特性の一部」である可能性もありますが、家庭での虐待や不適切な関わりのSOSサインである可能性もあります。
判断の目安は「特性そのもの」ではなく「変化」です。急激な行動の変化、特定の日だけ様子が違う——そういった変化は、障がい特性だけでは説明しにくいことが多いのです。
一人の指導員が「なんかいつもと違う気がする」と感じたとき、それをチームに共有できる環境があるかどうか。それが、子どもを守る最初の一歩になります。
チームがないと、不適切なケアが生まれやすい
「安全のためだった」「どうしても言うことを聞かなかったから」——現場で不適切な関わりが起きるとき、それは「悪意」からではなく、一人で追い詰められた状況から生まれることが多いです。
「安全のためだった」「しつけのつもりだった」は、不適切な関わりの免罪符にはなりません。でも、それ以上に大切なのは、そうせざるを得なかった状況をチームとして変えていくことです。
特に、以下のようなことは児発・放デイ特有の「不適切なケア」として注意が必要です。
| 不適切なケアの例 | 起こりやすい状況 |
|---|---|
| パニック時の力による押さえ込み・別室への隔離 | 一人対応で手が足りない、判断を相談できる人がいない |
| 感覚特性を利用した脅し(「大きな音を出すよ」など) | 早く行動を変えさせなければという焦りとプレッシャー |
| 無視・放置・強い叱責の繰り返し | 疲弊・バーンアウト状態、支援スキルの限界を感じている |
| 「このくらいなら大丈夫」という判断の一人抱え込み | 相談できる文化がない、言いにくい雰囲気がある |
一人で追い詰められる前に、声をかけられる仲間がいる職場が、不適切なケアを未然に防ぎます。サービス管理責任者や管理者への相談・報告は、「大げさかな」と感じるくらいのことでも、組織として動くための重要な情報共有です。
「報連相」は義務じゃなく、子どもを守るツール
報告・連絡・相談、いわゆる「報連相」。社会人の基本として耳にすることが多いこの言葉ですが、この現場では特別な重みを持ちます。
なぜなら、報連相の一つの漏れが、子どもの安全に直結することがあるからです。
報告(ほう):悪い情報ほど、早く・正確に。「問題を起こした」のではなく「チームのリスク管理をした」という感覚で。結論と客観的な事実を分けて伝えましょう。
連絡(れん):「あの人には言ったけど…」が一番危ない。子どもの状態変化、ヒヤリハット、保護者からの情報は関係する全員に伝わっているか確認を。
相談(そう):「こんなこと聞いていいのかな」とためらわずに。相談は「弱さ」ではなく「プロとしての判断力」の証明です。
特に「相談」は、新人のうちほど苦手に感じる人が多いかもしれません。でも、一人で判断を抱え込んで誤った対応をするより、「ちょっと相談してもいいですか?」と声を出す方が、はるかに子どもを守ることにつながります。
バーンアウトを防ぐのも、チームの役割
この仕事が好きで、子どもたちのために一生懸命やりたい。そう思うからこそ、しんどいことも「もう少し頑張れば」と一人で抱えてしまう——そういう人ほど、バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクが高いと言われています。
バーンアウトとは、仕事への熱意や意欲を失い、心身が疲れ果ててしまう状態のこと。対人援助職は特に陥りやすいと言われています。蓄積したストレスは判断力を鈍らせ、子どもへの関わり方にも影響を及ぼします。
・「最近ちょっとしんどくて」と同僚に一言言ってみる
・うまくいったことをチームで共有して、一緒に喜ぶ
・困った対応があったとき「どうすれば良かったですか?」と先輩に聞いてみる
・チームミーティングで「最近気になっていること」を一つ出してみる
良いチームは、子どもを守るためだけでなく、あなた自身を守るためのセーフティネットでもあります。
今日からできる「チームプレイヤー」チェックリスト
☐ 子どもの「いつもと違う」変化を一人で判断せず、相談できたか
☐ 報告のとき「事実」と「自分の解釈」を分けて伝えられたか
☐ 「相談するのは弱さじゃない」と感じられているか
☐ バーンアウトのサインを感じている同僚に声をかけられたか
☐ チームの決定に、自分の意見と違っても協力的に取り組めたか
一人でなんとかしようと頑張ることは、決して悪いことではありません。でも、この仕事は一人でできるようには設計されていません。
声をかけることが、子どもを守る最初の一歩。あなたがチームに声を出すことで、誰かが助かる。それが、この現場のチームワークの本質です。
今日の終わりに、隣の同僚に一言声をかけてみてください。それだけで、チームはもう動き始めています。あなたが声を出すことが、チームの力を生み出すのです。

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