発達障害の基礎知識② ADHD、LD等
はじめに:「なまけ」や「努力不足」ではない、脳の特性
「ADHD(注意欠如・多動症)」と「LD(学習障害/限局性学習症)」の特性を持つ子どもたちは、その表面的な姿から「なまけている」「努力が足りない」と誤解されがちです。
しかし、それは大きな間違いです。彼らの行動の背景には、本人の意欲の問題ではなく、生まれ持った脳の機能の偏りがあります。
ADHDのイメージ
「アクセルが強力なスポーツカーに、自転車のブレーキが付いている」ような状態。
LDのイメージ
「非常に高性能なパソコンなのに、特定のキーボードだけがうまく反応しない」ような状態。
この研修では、彼らの行動の背景にある脳の特性を正しく理解し、本来の能力を発揮するための具体的な支援方法を学んでいきましょう。
「うっかり」と「じっとしていられない」の背景:ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDは、年齢や発達レベルに不相応な「不注意さ」「多動性」「衝動性」を主な特徴とする、生まれつきの脳機能の偏りです。 脳内の神経伝達物質の働きに偏りがあり、行動や注意をコントロールする機能が働きにくいと考えられています。
① 不注意 (Inattention)
背景:注意力が「無い」のではなく「コントロールが苦手」な状態。興味のないことへ注意を向け続けたり、多くの情報から必要なものを選んだりすることが脳の機能的に難しいのです。逆に、好きなことには驚異的な集中力(過集中)を発揮することがあります。
例:忘れ物が多い、話を聞いていないように見える、ケアレスミスが多い。
② 多動性 (Hyperactivity)
背景:「じっとしていよう」と思っても、脳からの指令で体が動いてしまいます。静かに座っていることに、大きなエネルギーを消耗します。
例:手足をもじもじする、席を離れる、おしゃべりが止まらない。
③ 衝動性 (Impulsivity)
背景:「考え→行動」の間に「一瞬待つ」という脳のブレーキ機能が働きにくい状態。思ったことが、すぐに行動や言葉として出てしまいます。
例:質問が終わる前に答える、順番を待てない、会話に割り込む。
「知的発達に遅れはないのに…」の背景:LD(限局性学習症/学習障害)
LDは、全般的な知的発達に遅れはないにもかかわらず、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」といった特定の能力の習得と使用に、著しい困難を示す状態を指します。本人の努力不足や知的障害とは全く異なります。
| タイプ | 困難さの例 |
|---|---|
| 読字障害(ディスレクシア) | ・文字が歪んだり、ぼやけて見えたりする。 ・似ている文字(「わ」と「ね」など)の区別が難しい。 ・文章のどこを読んでいるか分からなくなる。 |
| 書字表出障害(ディスグラフィア) | ・鏡文字(左右反転した文字)をよく書く。 ・文字の形や大きさを整えるのが難しい。 ・頭では分かっているのに、文字として書き出せない。 |
| 算数障害(ディスカリキュリア) | ・数字の大小や順番の理解が難しい。 ・簡単な暗算ができない。 ・図形やグラフの理解が苦手。 |
可能性を最大限に引き出す支援のポイント
支援の基本は、「子どもを変えようとする」のではなく、「環境を調整し、関わり方を工夫する」ことです。
子ども自身を変えるのではなく、子どもを取り巻く環境にアプローチすることが重要です。
ADHDのある子への支援
- 環境調整: 刺激の少ない席にする、机の上には必要なもの以外置かない。
- 指示の工夫: 「短く、具体的に、一つずつ」伝える。
- 時間の可視化: 残り時間が見えるタイマーを使い、見通しを持たせる。
- エネルギーの発散: 体を動かす役割を与えたり、定期的に休憩を設けたりする。
LDのある子への支援
- 多様な感覚での学習: 目で見るだけでなく、耳で聞く、手で触るなど複数の感覚を使って学ぶ。
- テクノロジーの活用: タブレットの読み上げ機能や計算機などを積極的に活用する。
- スモールステップ: 課題を達成可能な小さなステップに分解して提示する。
- 得意なことを活かす: 書くのが苦手でも話すのが得意なら口頭発表を認めるなど、強みを評価する。
最も防がなくてはならないもの:二次障害の深刻な危険性
二次障害とは、ADHDやLDといった生まれ持った特性(これを一次障害と呼びます)そのものよりも、周囲の無理解や不適切な対応によって生じる、後天的な心の問題です。
これは、本来はまっすぐに育つはずだった植物が、水や光を与えられず、石を投げつけられることで、枯れたり歪んだりしてしまうのに似ています。この二次障害こそが、子どもの人生を長期にわたって苦しめる最大の要因であり、私たち支援者の知識と関わり方で「予防できる」最も重要な課題なのです。
- 【ステップ1:特性による困難】
不注意で、何度も忘れ物をしてしまう。衝動的に、友達の邪魔をしてしまう。一生懸命やっても、文字がうまく書けない。
⬇ - 【ステップ2:周囲からのネガティブな反応】
「なんで、いつもできないの!」と毎日叱られる。「また君か…」と呆れられる。友達から「迷惑だ」と仲間外れにされる。
⬇ - 【ステップ3:自己肯定感の低下】
(心の声)「僕がダメな子だから、いつも怒られるんだ」「どうせ頑張っても、うまくいくわけがない」「誰も僕のことなんて、好きじゃないんだ」
⬇ - 【ステップ4:二次障害の発生(心のSOSサイン)】
自己肯定感を失った子どもは、自分を守るために、あるいはSOSを発信するために、様々な行動上の問題や心身の不調を示し始めます。
二次障害の具体的な現れ方
| 二次障害の例 | 子どもの行動や状態の例 |
|---|---|
| 不安障害・うつ | ・常にオドオドしている、新しいことへの挑戦を極端に嫌がる。 ・「どうせ失敗する」が口癖になる、表情が乏しくなる。 ・腹痛や頭痛など、原因不明の体調不良を訴える(心身症)。 |
| 反抗挑戦性障害 | ・大人に対して、わざと反抗的な態度や乱暴な言葉遣いをする。 ・指示に従わず、「うるさい」「あっち行け」などと言う。 ・(背景には「どうせ期待されてない」という絶望感が隠れている) |
| 行為障害(非行) | ・他者を傷つけたり、物を盗んだり、社会的なルールを破る行動。 ・(自分を認めてくれない社会への反発として現れることがある) |
| 不登校・ひきこもり | ・叱責や失敗が続く学校(安心できない場所)に行くことを拒否する。 ・自分の部屋に閉じこもり、家族との関わりも避ける。 |
二次障害を防ぐための「心のワクチン」
この深刻な悪循環を断ち切るために、私たち支援者ができることは「心のワクチン」を打ち続けることです。
① 正しい理解
その子の行動を「性格の問題」ではなく「脳の特性による困りごと」として捉え、本人を決して責めない。
② 成功体験の保障
「できた!」「わかった!」と心から感じられるような、スモールステップの課題を用意し、自信を育む。
③ 努力の承認
結果が伴わなくても、工夫しようとした姿勢や、取り組もうとした意欲を具体的に見つけて褒める。「メモを書いたんだね、素晴らしい工夫だね!」
④ 絶対的な味方であることの表明
「先生は、あなたの頑張りをちゃんと知っているよ」「困った時は、いつでも言ってね」と伝え、安心できる居場所を作る。
【グループワーク】
事例:
ADHDの特性があるB君。集団活動の際、じっと座っていられず、他の子にちょっかいを出してしまい、活動がしばしば中断します。周りの子から「B君がいるとつまらない」という声も出始め、B君自身も浮かない顔をしています。
<話し合いのポイント>
- B君の行動の背景には、どのようなADHDの特性が考えられますか?
- B君と集団全体の活動を保障するために、あなたならどのような支援(環境調整や関わり方の工夫)をしますか?
- この状況は、二次障害に繋がる危険性をはらんでいます。B君の自己肯定感を守るために、どのような言葉かけや対応ができますか?
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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