基本的な生活習慣の支援② 排泄・睡眠・清潔
おむつを替え、寝かしつけ、手を洗う。これらは一見「当たり前」のケアに見えますが、実は子どもの「人としての尊厳」を守り、自分を大切にする気持ちを育む、非常に専門性の高い実践です。「トイレトレーニング」という言葉に潜む落とし穴、睡眠が脳と心に与える驚くべき影響、そして手洗いを「やりたい!」に変える魔法の言葉かけ。この記事では、毎日のケアに込められた深い意味を紐解き、流れ作業ではない、一人ひとりの子どもに寄り添った丁寧な関わりの技術を具体的に解説します。
1. はじめに:毎日の「当たり前」にこそ、専門性と愛情を
排泄・睡眠・清潔の支援は、子どもの生命を維持し、健やかな心身を育むための最も基本的な生活習慣です。私たちが日々行うこれらのケアは、子どもとの信頼関係を築く「信頼の貯金」を積み立てる、最も重要なコミュニケーションの機会なのです。この研修では、乳幼児期から学齢期、そして思春期へと続く子どもの発達を見据え、一人ひとりの尊厳を守り、生きる力の土台を築くための専門的な関わりを学びます。
2. 「おむつ替え」から「トイレで排泄」へ:尊厳と自立心を育む
排泄のケアは、子どもの最もプライベートな部分に関わる、非常にデリケートな支援です。私たちの関わり方一つで、排泄が「恥ずかしいこと」にも、「すっきりして気持ちいい、自然なこと」にもなり得ます。
「トレーニング」ではなく「ラーニング」へ
大人が一方的に教え込む「訓練」ではなく、子どもの心と体の準備が整った時に、本人の意欲に基づいて進めていく「学習」と捉えましょう。
トイレラーニング開始の Readiness Sign (準備OKのサイン)
- ✓おしっこの間隔が2時間以上空く
- ✓「ちっち」など言葉で伝えようとする
- ✓大人のトイレに興味を示す
- ✓自分でズボンを脱ごうとする
トイレラーニング 3原則
焦らない
叱らない
比べない
【学齢期の子どもへの視点】プライバシーの尊重
学齢期の子どもたちへの支援では、「自立」と「プライバシーの尊重」が重要なキーワードになります。他の子から見えない場所の確保、介助時の声かけ、失敗しても尊厳が守られる環境設定など、本人の羞恥心に最大限配慮します。
3. 脳と心を育てる大切な時間:睡眠
睡眠は単なる休息ではなく、脳が発達し、記憶が整理され、情緒が安定するために不可欠な、非常に重要な生命活動です。
① 安心・安全な睡眠環境の整備
- 安全の確保(SIDS予防): 必ず仰向けで寝かせ、顔の周りに物を置かず、5~10分毎に呼吸チェックを徹底します。
- 快適な環境: 部屋を暗く静かにし、快適な室温・湿度を保ちます。
② スムーズな入眠を促す「入眠儀式」
毎日同じことを繰り返し、眠る時間への見通しを持たせ、安心感を与えます。
- 静かな音楽をかける
- 決まった絵本を読む
- 優しく背中をトントンする
- 「おやすみ」と声をかける
【学齢期の子どもへの視点】「睡眠」から「休息」へ
学校生活で疲れた心と体をクールダウンさせるための、「何もしない時間」「ぼーっとする時間」を保障します。本人が落ち着ける方法を自分で選べる「クールダウン・スペース」の設置が有効です。
4. 自分を大切にする第一歩:清潔
手洗いや歯磨きは、感染症から身を守るだけでなく、「自分の体を大切にする」という自己肯定感の基礎を育む、重要な生活習慣です。
ポイントは「やらなきゃ」を「やりたい!」に変える魔法
「洗いなさい!」と命令するのではなく、歌や物語など、子どもが楽しめるストーリーに誘い、ユーモアと創造性で関わることが大切です。
嫌がる歯磨き、どう関わる?
Step 1: 慣れる
まずは歯ブラシを持たせてカミカミするだけでもOK!遊びの延長として捉えます。
Step 2: 真似る(モデリング)
支援者が楽しそうに自分の歯を磨いて見せ、「楽しそうだな」と思わせます。
Step 3: 見通しを立てる
「10数えたらおしまいね」と、終わりを明確に伝えて安心させます。
Step 4: 遊びに取り入れる
人形などを使い、「カバさんのお口をきれいにしようね」と役割遊びで誘います。
【学齢期の子どもへの視点】思春期を見据えたセルフケア
「なぜ清潔が必要か」を科学的に伝え、汗の匂いへの対処など、思春期の身体の変化に合わせた具体的なセルフケアの方法を伝えます。TPOに合わせた身だしなみなど、社会的なマナーとして身につけていく支援へとステップアップします。
グループワークで考えてみよう
<事例1:幼児期>
おやつの時間、外遊びから戻ったA君は、手を洗わずにおやつを食べようとしています。あなたが声をかけますが、A君は「嫌だ!早く食べたい!」と言って、手洗いを強く拒否しています。
<話し合いのポイント>
- A君の心の中にはどんな気持ちがあるでしょうか?
- A君の気持ちに寄り添い、手洗いに前向きになれるような、具体的な関わり方や言葉かけを複数考えてみましょう。(力づく以外の方法)
- このような状況を未然に防ぐために、日々の生活の中でどのような工夫ができますか?
<事例2:学齢期>
小学5年生のBさん。最近、汗の匂いを少し気にするような素振りを見せています。今日の活動でたくさん汗をかきましたが、着替えをせずに帰ろうとしています。職員が「汗をかいたから、着替えたらさっぱりするよ」と声をかけると、「面倒くさいからいい」と少し不機嫌そうに答えました。
<話し合いのポイント>
- Bさんの心の中には、どんな気持ち(羞恥心、面倒くささなど)が隠れているでしょうか?
- Bさんの自尊心を傷つけずに、清潔を保つことの心地よさや必要性に気づいてもらうためには、どのような声かけや環境設定が考えられますか?
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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