【ABA理論・第5回】問題行動をメッセージとして読む:機能的アセスメントの基本
子どもが叩く、叫ぶ、物を投げる、床に寝転がる。こうした行動が起きると、支援者はどうしても「早く止めなければ」と感じます。安全を守るために止める必要がある場面もあります。けれど、そこで終わってしまうと、同じ行動がまた別の日に起きることがあります。
ABA(応用行動分析)では、行動を「困ったこと」として片づける前に、その行動が何のために起きているのかを考えます。ここで大切になる言葉が「機能」です。
機能とは、その行動が子どもにとってどんな役割を果たしているか、という意味です。言い換えると、その行動によって子どもが何を得ているのか、何を避けているのかを考える視点です。
たとえば、同じ「泣く」という行動でも、欲しいおもちゃを手に入れるために泣いている場合もあれば、難しい課題から離れるために泣いている場合もあります。大人に見てほしくて泣くこともありますし、音や感覚の不快さを伝えるために泣くこともあります。
見た目は同じでも、機能が違えば必要な支援は変わります。だからこそ、問題行動への対応は「どう止めるか」から始めるのではなく、「この行動は何を伝えているのか」から始める必要があります。
問題行動は「悪い行動」ではなく、まだ粗い伝え方かもしれない
問題行動という言葉は便利ですが、少し注意が必要です。支援者側にとって困る行動であっても、子どもにとっては何かを伝えるための手段になっていることがあるからです。
たとえば、言葉で「手伝って」と言えない子が、課題プリントを破るとします。大人から見ると、プリントを破るのは問題行動です。しかし、その子にとっては「難しい」「助けて」「もうできない」というメッセージかもしれません。
また、他の子が使っているおもちゃを奪う子がいたとします。この行動も止める必要があります。ただし、奪うことだけを叱って終わると、「ほしい時にどう伝えればよいか」は学べません。子どもは、ほしいものを手に入れるための別の方法をまだ持っていないのかもしれません。
もちろん、危険な行動を見過ごすという意味ではありません。叩く、噛む、飛び出す、自傷につながる行動は安全確保が最優先です。そのうえで、落ち着いた後に「なぜその行動が必要になったのか」を考えることが、再発を減らす支援につながります。
問題行動をメッセージとして読むことは、行動を許すことではありません。子どもを責めるだけで終わらず、より安全で適切な伝え方へ置き換えていくための出発点です。
行動の4つの機能
ABAでは、行動の機能を大きく4つに整理して考えることが多くあります。要求、注目、逃避、感覚です。
要求とは、何かが欲しい、やりたい、手に入れたいという機能です。たとえば、おもちゃ売り場で床に寝転がって泣くことで、おもちゃを買ってもらえた経験がある場合、その行動は「要求」の機能を持っている可能性があります。
注目とは、大人や周囲の人に見てほしい、関わってほしいという機能です。支援者が他の子と話している時に大きな声を出し、その直後に支援者が振り向くなら、その行動は注目を得る役割を持っているかもしれません。
逃避とは、やりたくない課題、苦手な場面、不快な刺激から離れる機能です。課題を出された直後に席を立ち、その結果として課題が中断されるなら、行動の機能は逃避の可能性があります。
感覚とは、その行動自体から感覚的な刺激を得る機能です。体を揺らす、指を噛む、同じ音を繰り返す、高いところからジャンプするなど、周囲の反応がなくても続きやすい行動では、感覚の機能を考えることがあります。

ここで最も大切なのは、行動の「形」と「機能」は同じではないということです。
たとえば「机を叩く」という同じ行動でも、支援者に見てほしくて叩くなら注目かもしれません。課題をやめたくて叩き、その後課題が中断されるなら逃避かもしれません。叩いた時の音や振動が楽しくて続けているなら感覚かもしれません。
見た目だけで決めると、支援は外れやすくなります。機能を見ることで、ようやく「何を教えればよいか」が見えてきます。
機能的アセスメントとは何か
機能的アセスメントとは、行動の機能を推測するために情報を集め、パターンを見つけ、支援の仮説を立てるプロセスです。
アセスメントとは、支援の前に必要な情報を整理することです。機能的アセスメントでは、特に「どんな状況で行動が起きるのか」「行動の直後に何が起きているのか」を見ます。
ここで大事なのは、最初から正解を決めつけないことです。
「この子はわざとやっている」「注目したいだけだ」「やりたくないから逃げている」と、支援者の印象だけで決めてしまうと、見落としが起きます。仮説は必要ですが、仮説はデータから立てるものです。
機能的アセスメントは、子どもを疑うためのものではありません。子どもが困った行動を使わなくても伝えられるようにするため、支援者が状況を丁寧に読み取る方法です。
Step 1:標的行動を具体的に定義する
最初に行うのは、標的行動を決めることです。標的行動とは、今回観察して理解したい具体的な行動のことです。
ここで「暴れる」「パニックになる」「落ち着かない」と書くと、人によってイメージが変わってしまいます。記録する人が変わっても同じように判断できる言葉にすることが大切です。
たとえば、次のように書き換えます。
| あいまいな表現 | 観察しやすい表現 |
|---|---|
| 暴れる | 椅子から立ち上がり、机を両手で3回以上叩く |
| パニックになる | 床に座り込み、1分以上泣き声を出す |
| 攻撃する | 近くの子の腕を手のひらで叩く |
| 逃げる | 部屋の入口まで走って移動する |
具体的に定義すると、支援者同士で同じ行動を見やすくなります。さらに、行動が減ったのか、別の行動に変わったのかも確認しやすくなります。
Step 2:ABCデータを集める
機能的アセスメントでよく使うのがABCデータです。ABCとは、先行事象、行動、後続事象の頭文字です。
先行事象とは、行動の直前に起きたことです。誰が何を言ったか、どんな活動だったか、何が始まったか、何が終わったかを見ます。
行動とは、子どもが実際にしたことです。ここでは解釈ではなく、観察できる事実を書きます。
後続事象とは、行動の直後に起きたことです。支援者が声をかけた、課題が中断された、欲しいものが渡された、周囲の子が離れた、といった結果を記録します。

たとえば、次のような記録になります。
| A:先行事象 | B:行動 | C:後続事象 | 機能の仮説 |
|---|---|---|---|
| 課題プリントが机に置かれた | プリントを破り、床に落とした | 課題が中断され、支援者が声をかけた | 逃避の可能性 |
| 支援者が他児と話していた | 甲高い声を出した | 支援者が振り向き「どうしたの」と声をかけた | 注目の可能性 |
| おかわりを求めたが「おしまい」と伝えられた | 床に寝転がって泣いた | 支援者がそばに座り、背中をさすった | 要求または注目の可能性 |
この時、記録に支援者の感想を混ぜないことが重要です。
「イライラしていた」「わざとやった」「甘えていた」と書くと、記録者の解釈が入ります。代わりに、「使っていたミニカーを他児が取った」「床に座り込み、両足を10回ほど動かした」「支援者が『大丈夫』と言い、抱きしめた」のように書きます。
よい記録は、支援者を責めるためのものではありません。支援の手がかりを増やすためのものです。
Step 3:パターンから仮説を立てる
ABCデータは、1回だけで結論を出すものではありません。複数回の記録を見比べて、どんな時に起きやすいか、行動の後に何が起きているかを探します。
たとえば、課題が出た直後に席を立ち、その後いつも課題が中断されるなら、逃避の仮説が強くなります。支援者が他の子に関わっている時に声を出し、支援者が振り向くと落ち着くなら、注目の仮説が考えられます。
ただし、仮説は正解ではありません。「今の情報から見ると、この可能性が高い」という支援の出発点です。実際に支援を変えてみて、行動がどう変化するかを見ながら、仮説を修正することもあります。
この柔軟さが大切です。最初の仮説にこだわりすぎると、子どもの本当の困り感を見落とすことがあります。
アセスメントから支援へつなげる
機能の仮説が立ったら、次は代替行動を考えます。代替行動とは、問題行動と同じ機能を持つ、より安全で適切な行動のことです。
たとえば、機能が逃避なら、「プリントを破る」の代わりに「休憩カードを出す」「手伝ってカードを出す」「難しいと伝える」行動を教えます。
機能が注目なら、「奇声を出す」の代わりに「先生、見て」と言う、肩を軽く叩く、手を挙げるなどの方法を教えます。
機能が要求なら、「奪う」の代わりに「貸して」と言う、絵カードを渡す、指さしで伝える方法を教えます。
機能が感覚なら、その刺激を完全に禁止するのではなく、安全な形で近い感覚を得られる方法を考えます。噛むことで落ち着く子には安全に噛める道具を使う、体を揺らすことで落ち着く子にはバランスボールや揺れを取り入れた活動を検討する、といった形です。
問題行動をただ消そうとすると、子どもは別の強い行動で同じことを伝えようとする場合があります。大切なのは、その行動が果たしていた役割を理解し、よりよい伝え方を教えることです。
NG対応とOK対応
| NGになりやすい対応 | OKに近づける対応 |
|---|---|
| 行動の見た目だけで原因を決める | 直前と直後の状況を記録する |
| 「わざと」「甘え」と書く | 観察できる行動で書く |
| 一度の出来事で機能を決めつける | 複数回のABC記録からパターンを見る |
| 止めることだけを目標にする | 同じ機能を持つ代替行動を教える |
| 支援者の反応を記録しない | 行動の後に大人が何をしたかも記録する |
特に新人指導員が気をつけたいのは、C、つまり後続事象です。子どもの行動だけを見るのではなく、その直後に大人や環境がどう変わったかを見る必要があります。
たとえば、子どもが泣いた後に課題がなくなるなら、泣く行動は「課題から離れる方法」として強化されているかもしれません。子どもが大声を出した後に大人が必ず近づくなら、大声を出す行動は「大人に来てもらう方法」として強化されているかもしれません。
これは大人が悪いという話ではありません。支援者の反応も、行動のパターンを理解する大切な情報だということです。
個人ワーク:ABCで一場面を分けてみる
次の場面を、A、B、Cに分けて考えてみてください。
お絵描きの時間、子どもは楽しそうに絵を描いていました。支援者が近づき、「すごいね」と声をかけながら頭をなでました。すると子どもはクレヨンを床に投げ、席から離れました。支援者が驚いて手を止めると、子どもは少し離れた場所で落ち着きました。
メモする項目は次の通りです。
- A:行動の直前に何が起きたか。
- B:子どもは具体的に何をしたか。
- C:行動の直後に何が変わったか。
- 機能の仮説は何か。
- 次に支援者が変えられる関わりは何か。
この場面では、支援者が近づき、頭をなでたことが先行事象かもしれません。クレヨンを投げて席を離れたことが行動です。その結果、頭をなでられることや近い距離の関わりが終わったなら、逃避の仮説が考えられます。
もしこの仮説が合っているなら、支援者は「褒めること」をやめる必要はありません。ただし、距離を取って言葉で伝える、身体接触を避ける、子どもの反応を見ながら関わるといった調整が必要になるかもしれません。
明日から試せる一歩
明日からできる一歩は、問題行動が起きた時に「なぜ?」と考える前に、A、B、Cを一つずつ書くことです。
何が直前に起きたか。子どもは具体的に何をしたか。その直後に何が起きたか。
この3つを書くだけで、支援者の見方は変わります。「また困った行動が起きた」ではなく、「この行動は何を伝えているのだろう」と考える準備ができます。
機能的アセスメントは、子どもを分析対象として冷たく見るためのものではありません。子どものまだ粗いメッセージを、支援者が丁寧に読み取り、より安全で伝わりやすい方法へつなげるための技術です。
問題行動の背景にある機能が見えると、支援は変わります。叱る、止める、我慢させるだけではなく、伝え方を教える支援へ進めます。その一歩が、次回扱う「問題行動への対応」の土台になります。


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