【ABA理論 第1回】応用行動分析(ABA)の基本原則:行動を「困った」ではなく「読み解く」視点
子どもが急に床に寝転がる。活動の切り替えで大きな声を出す。課題を前にすると道具を投げる。発達支援の現場では、こうした場面に出会うことがあります。
その瞬間、支援者の頭には「どうして今?」「何を伝えたいのだろう」「叱った方がいいのかな」という迷いが生まれます。忙しい現場では、つい「落ち着きがない」「反抗的」「わざとやっている」と言いたくなることもあるかもしれません。
応用行動分析、いわゆるABAは、そのような場面を責めるための考え方ではありません。子どもの行動を良い・悪いで決めつけるのではなく、「その行動は、どんな状況で起き、どんな結果につながっているのか」を観察し、支援に変えていくための視点です。
この記事では、ABAの基本となる「行動の捉え方」「ABC分析」「行動の4つの機能」を、児童発達支援や放課後等デイサービスの現場で使える形に整理します。
ABAは子どもをコントロールする方法ではない
ABAと聞くと、「行動を変える技術」「訓練の方法」という印象を持つ人もいます。しかし現場で大切なのは、子どもを思い通りに動かすことではありません。
ABAの出発点は、子どもの行動を観察可能な事実として見ることです。支援者の感情や印象だけで判断せず、「何が起きたのか」「その前に何があったのか」「その後に何が変わったのか」を確認します。
たとえば、子どもがパズルを床に投げたとします。この時に「乱暴な子」と捉えると、対応は注意や叱責に偏りやすくなります。一方で、「難しい課題が出た直後に投げ、投げた後に課題が片付いた」と捉えると、見えるものが変わります。
その行動は、課題から逃れるための手段になっていたのかもしれません。もしそうなら、必要なのは「投げてはいけない」と叱ることだけではなく、「難しい時に助けを求める方法を教える」「課題の量を調整する」「成功しやすい入り口を作る」といった支援です。
ABAは、子どもを責める視点ではなく、支援者の関わりを具体的に整える視点です。
「行動」と「解釈」を分ける
ABAでまず大切になるのは、「行動」と「解釈」を分けることです。
行動とは、誰が見ても同じように確認でき、数えたり記録したりできるものです。たとえば「椅子から立ち上がって歩く」「ブロックを手で叩く」「床に寝転がる」「首を横に振って『いや』と言う」は行動です。
一方で、「落ち着きがない」「やる気がない」「反抗的」「甘えている」は、行動そのものではなく支援者側の解釈です。もちろん、現場でそう感じること自体が悪いわけではありません。ただ、その言葉のままチームで共有すると、人によってイメージがずれます。
「落ち着きがない」と言った時、ある人は「5分以内に席を立つこと」を想像し、別の人は「座っているが手足を動かし続けること」を想像するかもしれません。これでは支援方針も記録もそろいません。
記録や申し送りでは、できるだけ行動の言葉に置き換えます。
| 解釈の言葉 | 行動として書き換える例 |
|---|---|
| 落ち着きがない | 活動開始から3分以内に椅子から立ち上がり、室内を歩く |
| 反抗的 | 「片付けよう」と声をかけると、玩具を棚から離れた場所へ投げる |
| やる気がない | 課題提示後、机に伏せて鉛筆を持たない状態が5分続く |
| わざと邪魔する | 他児が積んだブロックに近づき、手で倒す |
行動の言葉に直すと、支援者同士で同じ場面を見やすくなります。そして、変化も確認しやすくなります。「最近落ち着いてきた」ではなく、「席を離れる回数が1活動あたり5回から2回に減った」と言えるようになるからです。
ABC分析で行動の前後を見る
ABAの基本となる分析方法がABC分析です。ABCは、行動を3つの流れで見る考え方です。
- A:先行事象。行動の直前にあった状況やきっかけ
- B:行動。実際に起きた観察可能な行動
- C:後続事象。行動の直後に起きた結果や周囲の反応

図のように、ABC分析では行動を単独で見ません。行動の前に何があり、行動の後に何が変わったのかをセットで見ることで、支援の手がかりを探します。
行動だけを見ると、「投げた」「泣いた」「走った」で終わってしまいます。しかし、前後を合わせて見ると、子どもが何を学んでいるのかが見えてきます。
たとえば、難しいパズルを出された子どもが、パズルを床に投げたとします。その後、支援者が「危ないから今日はやめよう」と片付けた場合、ABCは次のように整理できます。
| A 先行事象 | B 行動 | C 後続事象 |
|---|---|---|
| 難しいパズルが提示された | パズルを床に投げた | パズルが片付けられ、課題がなくなった |
この時、支援者は安全のために片付けただけかもしれません。しかし子どもにとっては、「投げると難しい課題がなくなる」という結果になっています。すると、次に同じような課題が出た時にも、投げる行動が起きやすくなる可能性があります。
ここで大切なのは、支援者を責めることではありません。ABC分析は「誰が悪かったか」を探すものではなく、「どこを変えると支援がうまくいきやすいか」を探すものです。
この例なら、Aを変える方法として「最初の一手だけ一緒に行う」「難易度を下げる」「終わりの見通しを示す」が考えられます。Bの代わりに教える行動として「手伝って」「休憩したい」と伝える方法を練習することもできます。Cを整えるなら、投げた後に課題が完全になくなる形ではなく、安全を確保しつつ、落ち着いた後に小さな成功で終えられる流れを作ることが考えられます。
行動には4つの機能がある
ABC分析で見たいのは、その行動が子どもにとってどんな意味を持っているかです。ABAでは、行動の目的を「機能」と呼びます。代表的な機能は4つです。

| 機能 | 子どもが得ているもの | 場面例 |
|---|---|---|
| 要求 | 欲しい物や活動を得る | おもちゃが欲しくて泣く |
| 注目 | 人の関心や反応を得る | 支援者が他児と話している時に大声を出す |
| 逃避 | 嫌なことや難しいことから離れる | 課題が出ると机に伏せる |
| 感覚 | 行動そのものの刺激を得る | 手をひらひらさせて光を見る |
同じ行動でも、機能が違えば支援は変わります。
たとえば「大声を出す」という行動があったとします。おもちゃを取ってほしくて大声を出しているなら、要求の機能かもしれません。この場合は「ちょうだい」「貸して」など、代わりになる伝え方を教えることが支援になります。
一方で、支援者が別の子と関わっている時だけ大声を出し、そのたびに支援者が近づいて注意しているなら、注目の機能が考えられます。この場合は、大声を出した時の反応だけを強めるのではなく、適切に呼べた時や待てた時にしっかり関わることが重要になります。
さらに、課題場面で大声が出るなら逃避の可能性があります。音や感覚を楽しんでいるなら感覚の可能性もあります。だからこそ、行動の名前だけで決めつけず、AとCを一緒に見る必要があります。
NG対応とOK対応
ABAの視点を現場で使う時、最初から完璧な分析を目指す必要はありません。まずは、よくある対応を少しだけ見直すところから始められます。
| NGになりやすい対応 | OKに近づける対応 |
|---|---|
| 「またやった」と行動だけを見る | 直前と直後も合わせて見る |
| 「わざと」「反抗的」とラベルで共有する | 観察できた行動で共有する |
| 注意だけで終わる | 代わりの行動を教える |
| 行動が起きた後だけ対応する | 起きる前の環境を整える |
| 支援者ごとに対応が違う | チームでABCを共有する |
特に大切なのは、問題行動を減らすことだけを目的にしないことです。子どもは、その行動によって何かを得たり、何かから逃れたり、何かを伝えたりしています。その機能を無視して行動だけを止めようとすると、別の行動に置き換わることがあります。
行動を減らすより先に、「その子が何を伝えたかったのか」「もっと適切な方法で同じ目的を達成できるか」を考えることが、支援の質を上げます。
個人ワーク:今日の1場面をABCで見る
ここで、自分の現場を思い浮かべてください。最近対応に迷った子どもの行動を1つ選びます。大きな問題でなくても構いません。
次の3つを書き出してみましょう。
- A:その行動の直前に何がありましたか。
- B:子どもは具体的に何をしましたか。誰が見ても分かる言葉で書けていますか。
- C:その行動の直後、周囲はどう反応しましたか。子どもにとって何が変わりましたか。
書き終えたら、4つの機能のどれに近いか仮説を立てます。要求、注目、逃避、感覚のどれでしょうか。すぐに正解を出す必要はありません。まずは仮説を持つことが第一歩です。
可能であれば、同じ行動を数日観察してみてください。毎回同じAで起きているのか、Cに共通点があるのかが見えてくると、支援の方向性がぐっと具体的になります。
チームで共有する時の観察メモ
ABC分析は、一人で考えるだけでなくチームで共有すると力を発揮します。ただし、共有する時に大切なのは「結論」よりも「観察した事実」を先に出すことです。
たとえば、「注目が欲しいのだと思います」とだけ伝えると、聞き手は理由を確認できません。代わりに、「自由遊びで支援者が他児に声をかけた直後に、大きな声を出しました。その後、支援者が近づいて注意すると笑顔になりました」と共有すると、チームで同じ材料を見ながら仮説を考えられます。
観察メモは長くなくて構いません。「いつ」「何の直後に」「何をして」「その後どうなったか」の4点があれば、次の支援会議や申し送りで使える情報になります。
明日試せる一歩
明日からできることは、とても小さくて構いません。対応に迷う行動が起きた時、心の中で「今のAは何だった? Bは何をした? Cで何が変わった?」と3つに分けてみてください。
そして、記録を書く時に1つだけラベルを行動の言葉へ置き換えます。
「落ち着きがなかった」ではなく、「朝の会開始から2分後に席を立ち、棚の前まで歩いた」と書いてみる。これだけでも、次の支援が考えやすくなります。
ABAの基本は、子どもを決めつけないことです。行動を丁寧に見ることで、「困った行動」は「支援のヒント」に変わります。子どもが何を伝えようとしているのかを読み解き、より伝わりやすい方法を一緒に作っていく。そのための最初の道具が、ABC分析です。


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