【ABA理論・第11回】集団療育への応用: プログラム立案で「みんな」と「その子」を両立する
前回までは、主に子ども一人ひとりへの関わりを扱ってきました。ABAの基本原則、強化、観察、プロンプト、機能的アセスメント、NBDI、コミュニケーション支援。どれも、個別支援でとても重要な考え方です。
今回からは、その学びを集団療育に広げていきます。
集団療育というと、「複数の子どもを同時に見る活動」と考えられがちです。しかし、本来の目的はそれだけではありません。集団だからこそ学べることがあります。友達の動きを見る、順番を待つ、ルールに沿って動く、他者に声をかける、同じ活動を共有する、集団の中で自分の役割を持つ。これらは、一対一の支援だけでは育ちにくい経験です。
一方で、集団療育は難しさも大きい場面です。発達段階も、得意なことも、苦手なことも、個別支援計画の目標も違う子どもたちが同時に参加します。だからこそ、当日の勢いや支援者の頑張りだけに頼るのではなく、事前のプログラム立案が重要になります。
集団療育は「みんな同じことをする時間」ではない
集団活動では、全員が同じ活動に参加しているように見えます。たとえば、フルーツバスケット、新聞紙遊び、運動遊び、制作活動、朝の会などです。
しかし、同じ活動に参加していても、一人ひとりの学びは違います。
フルーツバスケットで考えてみましょう。ある子にとっては、ルールを聞き取って席を移動することが目標かもしれません。別の子にとっては、自分の番が来るまで椅子に座って待つことが目標かもしれません。また別の子にとっては、友達の動きを見て真似することや、「どうぞ」と言うことが目標かもしれません。
つまり、集団療育は「みんなに同じ成功を求める場」ではありません。同じ活動の中に、それぞれの成功の基準を設定する場です。
ここを誤ると、支援者は「ゲームのルールが分かっていない」「みんなと同じように動けない」と評価しがちです。しかし、その子の個別目標が「5分間その場に参加する」なら、ルール理解が十分でなくても、座って参加できたこと自体が大きな成功です。
集団療育の計画では、「活動として何をするか」だけでなく、「その活動の中で、その子に何を経験してほしいか」を明確にする必要があります。
集団のねらいと個別のねらいを分ける
プログラム立案の第一歩は、「集団のねらい」と「個別のねらい」を分けて考えることです。
集団のねらいとは、その活動全体で子どもたちに経験してほしい共通の目標です。たとえば、「ルールのある遊びを楽しむ」「順番を待つ経験をする」「友達と同じ素材を使って制作する」「集団の流れに合わせて移動する」などです。
個別のねらいとは、その活動の中で一人ひとりが取り組む具体的な目標です。個別支援計画に基づいて設定します。

同じ新聞紙遊びでも、個別のねらいは変わります。
発語を促したい子なら、「ちぎって」「もう1回」「かして」などの要求を出す機会を作るかもしれません。感覚遊びに入りにくい子なら、新聞紙に触れる、近くで見る、支援者と一緒に一度だけちぎることが目標になるかもしれません。着席が課題の子なら、活動の始まりと終わりに椅子へ戻ることが目標になるかもしれません。
このように、一つの活動には複数の成功があります。支援者がそれを事前に決めておくと、活動中の見るポイントがはっきりします。
新人指導員が集団活動で迷いやすいのは、「全員を同じ基準で見てしまう」ことです。集団の流れは大切ですが、個別の成功を見失うと、その子にとって活動の意味が薄くなります。
集団活動は始まる前に9割決まる
集団療育で問題行動が起きた時、支援者はその場で対応しようとします。もちろん、その場の対応も必要です。しかしABAの視点では、問題行動が起きる前の条件を整えることが非常に重要です。
行動の前にあるきっかけや環境を、先行事象といいます。ABC分析でいうAです。集団療育では、このAをどれだけ整えられるかが、活動の質に大きく影響します。
たとえば、見通しが持てないために不安になりやすい子がいます。その子に対して、活動の流れを言葉だけで説明しても十分でない場合があります。写真や絵カードで「朝の会」「運動遊び」「おやつ」「帰りの準備」と順番を示すと、落ち着いて参加しやすくなります。
また、刺激に反応しやすい子が、窓の外や棚のおもちゃが見える席に座ると、活動に集中しにくくなることがあります。この場合、座席を壁側にする、視界に入る物を減らす、支援者が近くに座るなどの環境設定が必要です。
先行事象の工夫は、子どもを管理するためではありません。子どもが成功しやすい条件を整えるための支援です。
構造化で「何をすればよいか」を見えるようにする
集団活動では、子どもにとって分かりにくい情報がたくさんあります。いつ始まるのか。何をするのか。どこに座るのか。いつ終わるのか。次に何があるのか。大人には当たり前でも、子どもには見えにくいことがあります。
そこで役立つのが構造化です。構造化とは、活動の流れ、場所、手順、ルールなどを分かりやすく整理することです。
たとえば、活動の流れを写真カードで示す。制作の手順を1、2、3の順番で見せる。座る場所にマークをつける。終わった教材を入れる箱を用意する。これらはすべて構造化です。
構造化があると、子どもは「次に何をすればよいか」を理解しやすくなります。理解できると、不安や混乱が減り、問題行動も起きにくくなります。
新人指導員が意識したいのは、説明を増やすより、見て分かる情報を増やすことです。言葉だけで「今から新聞紙をちぎって、袋に入れて、最後にみんなで投げます」と説明しても、子どもによっては処理が難しい場合があります。写真や見本、実物を使うと、活動の見通しがぐっと分かりやすくなります。
ルールは少なく、具体的に、肯定的に
集団活動ではルールが必要です。ただし、ルールが多すぎると子どもは覚えられません。新人指導員ほど、心配なことを全部ルールにしようとしてしまいます。
ルールは3つ程度に絞るのが現実的です。そして、できるだけ具体的で肯定的な表現にします。
「走らない」よりも「お部屋では歩きます」。
「大きな声を出さない」よりも「先生の声が聞こえる声にします」。
「お友達を押さない」よりも「順番を待ちます」。
否定形のルールは、何をすればよいかが分かりにくいことがあります。肯定的なルールにすると、望ましい行動が見えやすくなります。
さらに、ルールは絵や写真で示すと効果的です。活動前に一度確認し、活動中にも必要に応じて指差しで思い出せるようにします。これにより、支援者が何度も強く注意する必要が減ります。
教材と配置にも支援の意図を持つ
集団療育では、物の置き方や座席配置も支援です。
支援が必要な子の近くには、すぐに手助けできる支援者を配置します。トラブルになりやすい子同士は距離を取ることもあります。刺激に弱い子は、出入口や棚から離れた場所の方が落ち着きやすいかもしれません。
教材も、ただ配ればよいわけではありません。全員に一度に配ると待てない子が混乱する場合は、順番に渡す方法を考えます。逆に、要求の機会を作りたい場合は、あえて教材を支援者が管理し、「ちょうだい」「かして」を使う場面を作ることもできます。
ここで前回までのNBDIやコミュニケーション支援が活きます。集団活動の中でも、子どもの「欲しい」「やりたい」を使って、自然な要求の場面を作れます。
ただし、集団では待ち時間が長くなりやすいため、子どもが成功できるテンポを考えることが大切です。待つ練習をしたい子もいれば、長く待つと崩れやすい子もいます。個別のねらいに合わせて、配置や教材の出し方を調整します。
集団の中でも強化を設計する
ABAでは、望ましい行動の後に、その子にとって意味のある結果が続くことで、その行動が起きやすくなると考えます。これが強化です。
集団活動でも、強化の原理は変わりません。支援者は、子どもの望ましい行動を見つけて、すぐに反応します。
たとえば、椅子に座って待てたら「待てたね」。友達に「かして」と言えたら「言葉で言えたね」。片付けに参加できたら「一緒に入れられたね」。このように、何がよかったのかが分かる言葉で返します。
さらに、集団ならではの強化として、グループ強化があります。グループ強化とは、集団全体の望ましい行動に対して、みんなで共有できる結果を用意する仕組みです。
たとえば、お星さまポスターを用意します。活動前に、「みんなで5個星が集まったら、最後にシャボン玉をします」と伝えます。友達に「どうぞ」が言えた、順番を待てた、片付けに参加できたなど、望ましい行動が出た時に星を貼ります。目標数に達したら、みんなでシャボン玉をします。
ここで大切なのは、星を貼る基準を支援者が明確に持つことです。何となく盛り上げるために貼るだけでは、子どもにとって行動と結果のつながりが分かりにくくなります。「今、順番を待てたから星」「お友達にどうぞができたから星」と伝えることで、どの行動が望ましいのかが見えます。
グループ強化は、仲間同士の肯定的な関わりも生みやすくなります。Aくんの頑張りで星が増えると、他の子も喜ぶ。支援者だけでなく、友達からも「やったね」という反応が返る。このような社会的な強化は、集団療育ならではの力です。
プログラム立案はABCで考える
集団療育の計画は、ABCで考えると整理しやすくなります。

Aは先行事象です。活動前に何を準備するか、どんな見通しを示すか、どこに座るか、どんなルールを提示するかを考えます。
Bは行動です。活動中に、子どもにどんな行動を経験してほしいかを明確にします。順番を待つ、要求する、友達を見る、模倣する、座って参加する、片付けるなどです。
Cは結果です。望ましい行動が出た時に、どんな強化を返すかを決めます。称賛、活動の継続、教材が使える、友達と一緒に楽しめる、グループの星が増えるなどです。
この3つを事前に考えると、活動中の支援が安定します。
たとえば、新聞紙遊びなら、Aとして活動の手順カード、座る場所、新聞紙の配り方、ルールを準備します。Bとして「新聞紙をちぎる」「ちぎってと要求する」「友達の動きを見て真似る」「袋に入れる」を設定します。Cとして「ちぎれたら一緒に喜ぶ」「要求できたら新聞紙を渡す」「片付けできたら星を貼る」「最後に新聞紙シャワーをする」を計画します。
こうして考えると、ただの遊びに見える活動にも、支援の意図が入ります。
個人ワーク: 新聞紙遊びを計画してみる
次のワークは、研修ではグループで考える内容ですが、一人でも取り組めるように整理します。
活動は「新聞紙を使ったビリビリ遊び」です。次の4点を書き出してみてください。
- 集団のねらい
- 個別のねらいを持つ子どもを2人想定する
- 先行事象の工夫
- 強化の計画
例として、集団のねらいは「素材に触れながら、友達と同じ活動を楽しむ」とします。
個別のねらいとして、Aくんは「ちぎって」と要求すること、Bさんは「活動の始まりと終わりに椅子へ戻ること」と設定します。
先行事象の工夫として、活動の流れを写真カードで示し、座る場所にマークをつけます。新聞紙は最初から全員に大量に配らず、支援者が少しずつ渡します。ルールは「座ってちぎります」「先生の合図で投げます」「終わったら袋に入れます」の3つにします。
強化の計画として、Aくんが「ちぎって」と言えたらすぐに新聞紙を渡し、「言葉で伝えられたね」と返します。Bさんが椅子へ戻れたら、「戻れたね」と称賛し、次の活動のカードを見せます。集団全体では、片付けの袋がいっぱいになったら最後に新聞紙シャワーをする、という自然な結果を用意します。
このように書き出すと、活動中に何を見ればよいかが分かりやすくなります。
集団療育の質は、支援者の準備で変わる
集団療育は、予測できないことが多い場面です。子どもの気分、友達との距離、教材への興味、疲れ、音、待ち時間。さまざまな要素が影響します。
だからこそ、完璧な計画を作ることよりも、「何をねらうか」「どこでつまずきそうか」「どう成功につなげるか」を事前に考えることが大切です。
集団のねらいと個別のねらいを分ける。先行事象を整える。ルールを少なく具体的にする。教材と配置に意図を持つ。望ましい行動を見つけて強化する。
この基本があると、集団活動は「なんとなく進める時間」から、「子ども一人ひとりの発達を支える時間」に変わります。
次回は、集団療育の中でも特に重要なSSTを扱います。SSTとは、ソーシャルスキルトレーニングのことで、友達との関わり、順番、貸し借り、気持ちの伝え方など、社会的なスキルを練習する支援です。今回のプログラム立案の考え方は、SSTを組み立てる土台になります。


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