【ABA理論・第14回】総まとめ: ケーススタディで支援計画を組み立てる

【ABA理論・第14回】総まとめ: ケーススタディで支援計画を組み立てる

ABA理論シリーズも、今回で最終回です。

ここまで、ABAの基本原則、強化、観察、プロンプト、機能的アセスメント、問題行動への介入、個別支援計画、NBDI、コミュニケーション支援、集団療育、SST、環境設定を扱ってきました。

一つひとつの考え方は大切です。しかし、現場で必要なのは、知識を個別に覚えることだけではありません。目の前の子どもを見て、情報を整理し、行動の機能を考え、支援計画に落とし込み、チームで実行することです。

最終回では、ケーススタディを通して、これまでの学びを一つの支援の流れとして統合します。新人指導員にとって大切なのは、「正解を当てる」ことではありません。子どもの行動を責めず、背景を考え、よりよい伝え方や環境を用意しようとする姿勢です。

目次

支援計画は、行動を止めるためだけに作るものではない

問題行動が起きると、支援者はどうしても「どう止めるか」を考えます。叩くのをやめさせたい。泣き叫ぶのを止めたい。物を取るのをやめさせたい。現場では当然の思いです。

ただし、ABAの支援計画は、問題行動を止めるためだけのものではありません。

大切なのは、その行動が何のために起きているのかを考え、同じ目的をより適切な行動で達成できるように教えることです。これが代替行動の支援です。代替行動とは、問題行動の代わりに教える、より望ましい行動のことです。

たとえば、友達のおもちゃを無言で取る子がいるとします。この行動を「取ってはいけない」と注意するだけでは、子どもは「欲しい時にどうすればよいか」を学べません。「かして」と言う、絵カードを渡す、支援者に助けを求める、順番カードを使うなど、別の伝え方を教える必要があります。

支援計画は、問題を消す計画ではなく、子どもが使える行動を増やす計画です。

ケース: Aくんの行動を整理する

今回のケースは、Aくんです。

Aくんは5歳の年中児です。週3回、児童発達支援を利用し、普段は保育園に通っています。発語は「ママ」「ブーブー」「いや」などの単語が中心で、二語文はほとんど見られません。絵カードのマッチングは可能で、簡単な指示は理解できます。

人への関心はあり、支援者の後をついてくることがあります。友達が遊んでいる様子をじっと見ることもありますが、自分から関わるのは苦手です。好きなものは、ミニカー、プラレール、シャボン玉、体を動かす遊びです。

保護者からは、保育園でおもちゃの取り合いや叩いてしまうことが増えている、家では要求が通らないと床に寝転がって泣き叫ぶことがある、言葉の発達がゆっくりで気持ちをうまく伝えられないのではないか、という相談があります。

この情報だけで、Aくんを「乱暴な子」「わがままな子」と見るのは危険です。まずは行動を具体的に整理し、ABCで見ていきます。

標的行動は、具体的に定義する

支援計画を作る時は、まず標的行動を定義します。標的行動とは、支援で扱う対象の行動です。

ここで大切なのは、具体的で観察できる言葉にすることです。

「友達とうまく遊べない」では曖昧です。代わりに、「友達が使っている玩具を無言で取る」「玩具で友達の腕を叩く」のように書きます。

「かんしゃくが強い」も曖昧です。代わりに、「要求が通らない場面で床に寝転がり、手足をばたつかせ、大声で泣く」と定義します。

行動を具体的にすると、チームで同じものを見られるようになります。支援者ごとに解釈が違うと、記録も支援もぶれます。

今回のAくんでは、たとえば次の2つを標的行動として考えられます。

  1. 友達が使っている玩具を無言で取り、相手が反応すると玩具で叩く
  2. 要求が通らない場面で床に寝転がり、大声で泣き続ける

もちろん、実際の支援では、記録を重ねて定義をより正確にしていきます。

ABC分析で、行動の機能を仮説にする

次にABC分析をします。ABC分析とは、行動の前後関係を整理する方法です。Aは先行事象、Bは行動、Cは結果です。

ケーススタディのABC分析

場面1では、自由遊び中にBくんがプラレールで遊んでいました。Aくんは近づき、先頭車両を無言で取りました。Bくんが「返して」と泣くと、Aくんは車両でBくんの腕を叩きました。支援者が仲裁し、Aくんを別の場所へ連れて行きました。

この場面のAは、Bくんが魅力的な玩具で遊んでいることです。Bは、玩具を取る、叩く行動です。Cは、支援者が介入し、Aくんがその場から離れることです。

機能の仮説としては、玩具を手に入れたいという要求の機能が考えられます。また、友達とのやりとりの仕方が分からず、結果として叩く行動になっている可能性もあります。

場面2では、おやつのおかわりを欲しがり、空のお皿を支援者の前に置きました。支援者が「おしまい」と伝えると、Aくんは床に寝転がり、大声で泣きました。10分後、支援者がゼリーを渡すと泣き止みました。

この場面では、おかわりが欲しいという要求が通らないことがAです。Bは床に寝転がって泣く行動です。Cはゼリーをもらえたことです。この場合、泣く行動によっておやつが手に入ったため、要求の機能が強化された可能性があります。

場面3では、SSTでマイクを使って自己紹介をしました。Aくんは自分の番が終わった後もマイクを離しませんでした。支援者が「次のお友達にどうぞ」と言って手を伸ばすと、Aくんは「いや」と言って握りしめました。

この場面では、マイクという好みの物を手放す必要が出たことがAです。Bは、マイクを握りしめて拒否する行動です。Cは、支援者がさらに声かけをしたり、やりとりが続いたりすることです。機能としては、好みの物を保持したい、活動を続けたい、切り替えが難しい、という仮説が考えられます。

ここで大切なのは、機能は決めつけではなく仮説だということです。記録を重ね、チームで確認しながら修正していきます。

代替行動は、子どもが使える形にする

機能の仮説が立ったら、代替行動を考えます。

Aくんが玩具を取りたい場面では、「かして」と言うことが代替行動になるかもしれません。ただし、Aくんは二語文がほとんどないため、最初から「プラレールかして」と求めるのは難しいかもしれません。

そこで、「かして」の一語、絵カード、支援者へのヘルプカード、指差しなど、Aくんが成功しやすい方法を選びます。Aくんは絵カードのマッチングが可能なので、玩具カードや「かして」カードを使うことも検討できます。

おかわりの場面では、「もっと」「おかわり」「おしまいを受け入れる」「別の活動へ移る」などが支援の対象になります。まずは「もっと」と伝える方法を教えます。同時に、おかわりができない時の見通しも必要です。「おやつは1回」「次は遊び」などを視覚的に示すと、切り替えがしやすくなるかもしれません。

マイクを手放す場面では、「どうぞ」「あと1回」「タイマーが鳴ったら交代」などを教えられます。順番カードやタイマーを使うと、手放すタイミングが分かりやすくなります。

代替行動を考える時のポイントは、問題行動よりも簡単で、同じ目的を達成できることです。叩くよりも難しい行動をいきなり求めると、子どもは使いません。最初は成功しやすい形にし、少しずつ広げていきます。

先行事象への介入で、問題が起きにくくする

支援計画では、問題行動が起きた後の対応だけでなく、先行事象への介入を考えます。

たとえば、自由遊びで友達の玩具を取りやすいなら、活動前に「かして」のカードを確認します。支援者が近くで見守り、Aくんが友達の玩具を見ている段階で「かして?」とモデルを示します。友達との貸し借りが難しい場面では、最初は支援者が相手役になって練習するのもよいでしょう。

おやつでは、おかわりの見通しを事前に示します。「今日はゼリー1個」「食べたらおしまい」「次はシャボン玉」のように、視覚的に示すことで、終わりが分かりやすくなります。おしまいの後に楽しい活動を用意することも、切り替えを助けます。

マイクの場面では、順番カードやタイマーを使います。「Aくんの番」「次はCちゃん」と見えるようにする。Aくんの番が終わる前に「あと1回で交代」と予告する。交代できたら、次の楽しみを用意する。これらはすべて先行事象への介入です。

環境設定は、第13回で扱ったように、問題が起きにくい場を作る支援です。Aくんにとって分かりやすい見通し、使いやすいカード、近くにいる支援者、活動の順番が、行動を支えます。

後続事象への介入で、代替行動を強化する

後続事象への介入では、望ましい行動が出た時に強化し、問題行動が強化されないようにします。

Aくんが「かして」カードを渡せたら、すぐに短時間でも玩具を使えるようにします。友達の物をすぐに貸せない場合でも、「カードで言えたね」と強化し、支援者の同じ玩具を渡す、順番カードに入れるなど、伝えた行動が意味を持つようにします。

おやつの場面で「もっと」と伝えられた時、実際におかわりできるなら渡します。おかわりできない時は、「もっとって言えたね」と伝えた行動を認めたうえで、「今日はおしまい。次はシャボン玉」と見通しを返します。要求が通らない場面でも、伝えたこと自体は強化する必要があります。

一方で、床に寝転がって泣いた後に毎回ゼリーが出ると、泣く行動が要求の手段として強化される可能性があります。だからといって、子どもを放置するという意味ではありません。安全を確保し、落ち着ける支援をしながら、要求を通すタイミングは代替行動が出た時に合わせる必要があります。

後続事象への介入は、とても繊細です。現場では安全、保護者との方針、子どもの状態を踏まえてチームで決めます。一人の支援者がその場の判断で抱え込まないことが大切です。

支援計画を組み立てる流れ

保護者・園との連携は、支援を生活に広げるために必要

児童発達支援の中でうまくいっても、家庭や園で使えなければ、子どもの生活は大きく変わりません。だからこそ、保護者や園との連携が必要です。

連携で大切なのは、専門用語を並べることではありません。保護者や園の先生が実際に使える形で伝えることです。

たとえば、「Aくんの行動は要求の機能があるので、代替行動をDRAで強化してください」と伝えても分かりにくいかもしれません。代わりに、「Aくんは欲しい物がある時に、言葉にする前に取ってしまうことがあります。今は『かして』カードを渡す練習をしています。カードで伝えられた時は、すぐに『言えたね』と返して、可能な範囲で貸す経験を作ってください」と伝えます。

家庭では、おやつのおかわりが難しい時に「おしまいカード」と「次の活動カード」を使ってもらうかもしれません。園では、プラレール遊びの前に「かして」「どうぞ」のカードを確認してもらうかもしれません。

支援は、同じ方法を押しつけることではありません。家庭や園の状況に合わせて、できる形に調整することが大切です。

個人ワーク: Aくんの支援計画を1枚にまとめる

次の流れで、Aくんの支援計画を一人でまとめてみてください。

  1. 標的行動を具体的に2つ書く
  2. それぞれのABCを整理する
  3. 行動の機能を仮説として書く
  4. 代替行動を決める
  5. 先行事象への介入を考える
  6. 後続事象への介入を考える
  7. 保護者や園に共有する内容を一文で書く

たとえば、標的行動を「友達の玩具を無言で取る」とします。機能の仮説は「欲しい玩具を手に入れる」。代替行動は「かしてカードを渡す」。先行事象への介入は「自由遊び前にカードを確認し、支援者が近くで見守る」。後続事象への介入は「カードを渡せたら、短時間でも玩具を使える機会を作る」。共有文は「欲しい時にカードで伝える練習をしています。カードで伝えられたら、まず伝えたことを褒めてください」とできます。

このように一枚にまとめると、支援の流れが見えやすくなります。

ABAの基礎は、子どもを見るための道具箱

このシリーズで学んできたABAの知識は、子どもを型にはめるためのものではありません。子どもの行動を丁寧に見て、背景を考え、支援を組み立てるための道具箱です。

強化は、子どもの行動がどう増えるかを見るための考え方です。ABC分析は、行動の前後関係を整理するための方法です。機能的アセスメントは、行動の目的を考えるための視点です。代替行動は、子どもがよりよい方法で伝えられるようにする支援です。NBDIは、生活の中で自然に学びを引き出す方法です。SSTや環境設定は、集団の中で子どもが成功しやすい条件を作るための支援です。

新人指導員にとって、最初から完璧な支援計画を作ることは難しいかもしれません。それで大丈夫です。大切なのは、行動を見た時にすぐに叱るのではなく、「この行動にはどんな意味があるだろう」「この子に何を教えればよいだろう」「成功しやすい環境は作れるだろう」と考えることです。

この問いを持ち続けることが、専門性の土台になります。

これからの目標を決める

最後に、自分自身の目標も考えてみましょう。

これまでの記事を読んで、できるようになったことは何でしょうか。ABC分析の視点で行動を見られるようになった。強化子を探す意識が持てるようになった。問題行動を機能から考えられるようになった。記録を具体的に書く必要性が分かった。そうした小さな変化も成長です。

一方で、もっと学びたいこともあるはずです。SSTの進め方、保護者への説明、記録の書き方、個別支援計画の目標設定、とっさの場面での対応。課題が見えることは、成長の入口です。

明日からの一歩は、大きくなくて構いません。

1日1つ、子どもの行動をABCでメモする。先輩の声かけを観察する。支援後に「何が強化になっていたか」を振り返る。保護者に説明する時、専門用語を生活の言葉に置き換える。こうした小さな一歩が、現場の力になります。

ABA理論シリーズはここで一区切りです。しかし、支援者としての学びはここから続きます。知識を持つことは大切です。けれど、それ以上に大切なのは、目の前の子どもをよく見て、チームで考え、よりよい支援を試し続けることです。

その積み重ねが、子どもの「できた」「伝わった」「楽しかった」を増やしていきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次