【基礎編】第1回応用行動分析 (ABA) の基本原則
1. はじめに:なぜ行動を「分析」するのか?
私たちは毎日、子どもの様々な行動に触れています。その中には、私たちを笑顔にさせてくれるポジティブな行動もあれば、どう対応すれば良いか悩んでしまう行動もあります。
応用行動分析(ABA:Applied Behavior Analysis)とは、子どもの行動を「良い/悪い」で主観的に判断するのではなく、「なぜ、その行動が起きるのか?」を科学的に、客観的に分析し、支援に繋げていく考え方です。
この「なぜ?」を解き明かすことで、私たちは問題行動そのものを叩く(叱る)のではなく、その行動の根本にある原因にアプローチできるようになります。ABAは、子どもを理解するための最も強力な「科学のメガネ」なのです。
2. 行動を科学する①:すべては「行動」である
ABAで「行動」と呼ぶものには、厳密な定義があります。それは「誰が見ても同じように観察でき、測定できる動き」のことです。
「行動」の例 〇
- イスから立ち上がって歩く。
- 手でブロックを叩く。
- 「いやだ」と首を横に振る。
- 床に寝転がる。
「行動」ではないものの例 ×
- 落ち着きがない。
- 反抗的だ。
- やる気がない。
- わざとやっている。
なぜ、この区別が重要?
「落ち着きがない」という言葉は、人によって捉え方が違います。これでは、支援の共有も、効果の測定もできません。「イスから5秒以上離れる」のように具体的な「行動」で捉えることで、初めて客観的な支援が可能になります。
3. 行動を科学する②:行動の仕組み「ABC分析」
子どもの行動は、決して単独で起きているわけではありません。必ず、その直前の出来事(きっかけ)と、直後の出来事(結果)に挟まれています。この3つの関係性で行動を分析するのが「ABC分析」です。
A
Antecedent
先行事象 (きっかけ)
B
Behavior
行動
C
Consequence
後続事象 (結果)
【具体例1:ポジティブな行動】
A:先生が「おかたづけだよ」と声をかけ、箱を見せた。
B:Aくんがおもちゃを箱に入れた。
C:先生が「すごいね!ありがとう!」と笑顔で褒めた。
→ Cの「褒められたこと」が嬉しい結果となり、次も「おかたづけしよう」という行動に繋がりやすくなります。
【具体例2:困った行動】
A:難しい課題(パズル)がAさんの目の前に置かれた。
B:Aさんがパズルを床に投げた。
C:先生が「あーっ!」と言ってパズルを片付けた。(=課題がなくなった)
→ Cの「嫌な課題がなくなる」という結果が目的達成になり、次も投げる行動を繰り返す可能性が高まります。
グループワーク:ABC分析を体験しよう
【事例】
『おやつの時間、Bちゃんが隣の子のクッキーを取ってしまいました。それを見た先生は「こら!ダメでしょ!」と言って、クッキーを取り上げました。』
【考えてみよう】
- この事例を、ABCに分けて分析してみてください。
- この後Bちゃんは、また同じ行動を繰り返すでしょうか?それとも減るでしょうか?
分析のヒント
行動の「機能(目的)」が何かを考えてみましょう。もしBちゃんが、単純にクッキーが欲しかった(要求)だけなら、取り上げられたので行動は減るかもしれません。しかし、もしBちゃんが先生の関心が欲しかった(注目)としたらどうでしょう?「悪いことをすれば、先生がすぐに飛んできてくれる!」という学習になり、むしろ行動は増えてしまうかもしれません。このように、行動の背景にある機能を考えることが重要です。
4. 行動を科学する③:行動の「機能」は4種類
ABC分析で見えてくるのは、子どもがその行動(B)によって、どんな「良いこと(結果C)」を得ているかです。ABAでは、行動の目的(=機能)は、大きく分けて以下の4つに分類できると考えられています。
| 機能(目的) | 説明 | 具体例 |
|---|---|---|
| ① 要求 | 物や活動が欲しい | ・お菓子が欲しくて、お店の床で泣き叫ぶ → お菓子を買ってもらえた |
| ② 注目 | 人の関心が欲しい | ・先生が他の子と話している時に、わざと大きな声を出す → 先生が「静かに!」とこちらを見た |
| ③ 逃避 | 嫌なことから逃れたい | ・嫌いな野菜が出たので、お皿を手で払いのける → 野菜が片付けられた |
| ④ 感覚 | その行動自体が快感 | ・手をひらひらさせて光を見るのが楽しい・体を揺らすと落ち着く |
重要ポイント:行動の「機能」を決めつけるのは危険!
同じ「たたく」という行動でも、A君は「注目」が目的かもしれないし、Cさんは「嫌なことから逃げる」のが目的かもしれません。行動の見た目(専門用語で「トポグラフィ」と言います)は同じでも、機能(ファンクション)は全く違うのです。だからこそ、安易に「この子はこういう子だ」と決めつけず、ABC分析で客観的に状況を把握することが不可欠なのです。
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