【ABA理論 第3回】フリーオペラント観察:子どもの「好き」を行動から見つけるアセスメント
「この子は何が好きなんだろう」「どんな活動なら自分から関われるのだろう」。発達支援の現場では、支援を始める前にこの問いに向き合うことがよくあります。
前回の記事では、望ましい行動を増やすための「強化」について整理しました。強化を効果的に使うためには、その子にとって何が強化子になるのかを知る必要があります。けれども、子どもに「何が好き?」と聞くだけでは十分ではありません。
言葉でうまく答えられない子もいます。いつも同じキャラクター名や遊びを答えるけれど、実際には別の活動にも強い関心がある子もいます。その日の体調や環境によって、答えが変わることもあります。
そこで役立つのが、フリーオペラント観察です。これは、子どもの自由な行動を観察し、何に自発的に関わるのかを記録するアセスメント方法です。大人の思い込みではなく、子どもの行動から「好き」や「やる気の源」を読み取るための技術です。
アセスメントは支援の土台になる
アセスメントとは、支援を始める前に子どもの状態や特性、好み、困りごと、環境との関係を知るための情報収集です。
アセスメントが不十分なまま支援を始めると、支援者の勘や経験だけに頼りやすくなります。もちろん、経験は大切です。ただ、経験だけで判断すると、「この子は電車が好きなはず」「この活動なら喜ぶはず」といった思い込みが入りやすくなります。
ABAの視点では、支援は観察できる行動から考えます。強化子を探す時も同じです。大人が「好きそう」と感じるものではなく、子どもが実際に何へ近づき、何を選び、どれくらい関わり続けるのかを見ます。
支援の質は、最初の見立てで大きく変わります。だからこそ、アセスメントは「支援前の準備」ではなく、支援そのものの一部です。
フリーオペラント観察とは何か
フリーオペラント観察とは、子どもが自由に環境へ働きかける様子を観察し、記録する方法です。
「フリー」は、支援者からの指示や制限がないことを意味します。「オペラント」は、子どもが自発的に環境へ働きかける行動を指します。つまり、子どもが自由な状況で、どの物や活動に自分から関わるかを見る観察です。

目的は、強化子の候補を見つけることです。たくさん並んだ玩具や活動の中で、子どもが何を手に取り、どれくらい関わり、どんな表情や声を見せるのかを記録します。
これは「遊ばせているだけ」ではありません。支援者が声をかけすぎず、子どもの自然な選択を記録することで、支援に使えるデータを集めます。
ただ「好きなもの」を聞くだけでは足りない
子どもに好きなものを聞くこと自体は大切です。保護者から情報を聞くことも、とても有効です。ただし、それだけで強化子を決めるのは危険です。
たとえば、子どもが「電車が好き」と答えたとしても、実際には電車の絵本を見ることが好きなのか、線路を組み立てることが好きなのか、電車の音を聞くことが好きなのかは違います。
また、家ではよく遊ぶ玩具でも、事業所ではあまり関心を示さないことがあります。反対に、家では見たことのない教材に強く反応することもあります。
強化子は、子どもの中に固定されたものとして存在するというより、「その場で、その子の行動を増やす力を持つもの」です。だからこそ、言葉だけでなく行動を見る必要があります。
観察の進め方
フリーオペラント観察は、難しい検査ではありません。ただし、正確に行うには準備とルールが必要です。
Step 1:環境を準備する
まず、子どもが自由に選べるように、複数の玩具や活動を配置します。たとえば、ブロック、ミニカー、絵本、パズル、お絵描き、音の出る玩具、感覚遊びの素材などです。
この時、同じ種類の物ばかり並べないことが大切です。車のおもちゃだけをたくさん置くと、車が好きかどうかは分かっても、他の活動との比較ができません。
また、子どもが手に取りやすいように見える位置へ置きます。箱の中にまとめて入れてしまうと、上にある物だけが選ばれやすくなります。選択肢が見える形で配置することが、自然な選択を引き出します。
Step 2:声かけを控えて観察する
観察中、支援者はできるだけ指示を出しません。「これで遊んでみる?」「こっちもあるよ」と声をかけると、子どもの選択に大人の意図が混ざります。
もちろん、安全上必要な時は介入します。危険な行動や物の誤飲、他児への危害につながる場面では、観察より安全が優先です。
それ以外の場面では、支援者は少し距離を取り、子どもの自然な行動を見ます。研修資料では「支援者は空気になる」と表現されていますが、これは放置するという意味ではありません。安全を見守りながら、子どもの行動に余計な影響を与えないという意味です。
Step 3:時間と関わり方を記録する
観察では、「何に」「どれくらい」「どのように」関わったかを記録します。時間は5分から10分程度でも構いません。
たとえば、ミニカーを45秒走らせた、ブロックを20秒積もうとした、絵本を50秒見た、再びミニカーに戻った、というように記録します。
関わった時間だけでなく、表情や発声、繰り返し戻ってくるかも重要です。長く関わる物、何度も戻る物、表情が明るくなる活動は、強化子候補になりやすいです。
記録例の読み方
次のような記録があったとします。

| 時間 | 対象 | 関わりの様子 |
|---|---|---|
| 0〜45秒 | ミニカー | 手に取り、走らせる。笑顔。 |
| 46〜70秒 | ブロック | 積もうとするが、すぐやめる。 |
| 71〜200秒 | ミニカー | 再び手に取り、床で走らせる。 |
| 201〜250秒 | 電車の絵本 | ページをめくり、指差しする。 |
| 251〜380秒 | ミニカー | 3回目。並べて遊ぶ。 |
この例では、ミニカーに関わる時間が長く、何度も戻っています。これは、ミニカーが強化子候補として有力であることを示しています。
ただし、「一番長いものだけを使う」と考える必要はありません。電車の絵本も短時間ながら指差しがあり、関心がある可能性があります。強化子メニューには、第一候補だけでなく、第二候補や場面によって使える候補も入れておくと支援の幅が広がります。
観察で見たいポイント
フリーオペラント観察では、単に何を選んだかだけでなく、関わり方を見ます。
| 見るポイント | 具体例 |
|---|---|
| 接近 | 自分から近づく、手に取る |
| 持続 | 長く関わる、途中で戻ってくる |
| 表情 | 笑顔、集中した表情、リラックス |
| 発声 | 楽しそうな声、言葉、音まね |
| 操作 | 並べる、動かす、めくる、描く |
| 回避 | すぐ離れる、顔を背ける、拒否する |
同じ玩具でも、ただ触っただけなのか、目的を持って遊んでいるのかで意味が変わります。たまたま手に取っただけなら、強化子としては弱いかもしれません。一方で、短時間でも何度も戻るなら、関心が強い可能性があります。
観察前のチェックリスト
実際に観察を始める前に、支援者側で次の点を確認しておくと、記録の質が安定します。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 選択肢の偏り | 同じ種類の玩具ばかりになっていないか |
| 見えやすさ | 子どもが自分で見つけ、手に取れる配置か |
| 安全性 | 誤飲、転倒、他児との接触リスクがないか |
| 記録方法 | 誰が、何を、どの単位で記録するか |
| 観察時間 | 5分、10分など終わりを決めているか |
特に新人指導員が迷いやすいのは、「どこから記録を始めるか」です。基本は、子どもが対象へ近づき、見たり触ったりして関わり始めた時点を開始と考えます。手放した、別の活動へ移った、明らかに関心が切れた時点で終了します。
このルールを事前にそろえておくと、複数の支援者が観察しても記録のばらつきが少なくなります。
NG対応とOK対応
観察はシンプルですが、支援者の関わり方によってデータが変わってしまいます。特に新人指導員は、「子どもを楽しませなければ」と思って声をかけすぎることがあります。
| NGになりやすい対応 | OKに近づける対応 |
|---|---|
| 「これで遊んで」と誘導する | 選択肢を置き、子どもが選ぶのを待つ |
| 好きそうな物だけを並べる | 種類の違う物や活動を用意する |
| 何となく見守るだけ | 時間と対象を記録する |
| 一回の観察だけで決める | 日や時間を変えて複数回見る |
| 長く遊んだ物だけを見る | 表情、発声、戻ってくる回数も見る |
観察の目的は、子どもの自由な行動を支援に使える情報へ変えることです。楽しく遊べたかどうかだけでなく、次の支援にどう活かすかまで考えます。
個人ワーク:強化子メニューを作る
担当している子どもを一人思い浮かべてください。その子が自由時間に何へ関わっているかを、5分だけ観察するとしたら、何を記録しますか。
次の項目でメモを作ってみましょう。
- 用意する物や活動を5つ書く。
- どの物に自分から近づいたかを書く。
- 何秒くらい関わったかを書く。
- 表情、発声、戻ってくる様子を書く。
- 強化子候補を第一候補、第二候補に分ける。
このワークの目的は、完璧な記録を作ることではありません。子どもの「好き」を、支援者の印象ではなく行動から見る練習をすることです。
明日試せる一歩
明日からできることは、5分だけ「空気になって観察する」ことです。
声をかけすぎず、誘導しすぎず、子どもが自分から何を選ぶかを見ます。そして、選んだ物、関わった時間、表情や発声を簡単にメモします。
そのメモは、強化子メニューの第一歩になります。強化子が分かると、支援は「頑張って」だけではなく、「これができたら、好きな活動につながる」という具体的な見通しを作れるようになります。
フリーオペラント観察は、子どもの自由な姿の中に支援の手がかりを見つける方法です。大人の思い込みを少し横に置き、子どもの行動を丁寧に見る。その積み重ねが、その子に合った支援を作る土台になります。


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