【ABA理論・第4回】プロンプトとシェイピング:子どもの「できた」を育てる教え方

【ABA理論・第4回】プロンプトとシェイピング:子どもの「できた」を育てる教え方

「やってほしい行動がある。でも、その行動がまだ出てこない」

発達支援の現場では、この場面に何度も出会います。片づけてほしい、手を洗ってほしい、あいさつをしてほしい、言葉で伝えてほしい。大人には当たり前に見える行動でも、子どもにとってはまだ獲得途中のスキルかもしれません。

前回までの記事では、ABA(応用行動分析)の基本として、行動を増やす「強化」と、その子にとっての強化子を見つけるための観察について整理しました。強化子とは、その子の行動を増やす力を持つものや関わりのことです。では、そもそも強化したい行動がまだ出てこない時、支援者は何をすればよいのでしょうか。

そこで役立つのが、今回扱う「プロンプト」と「シェイピング」です。

プロンプトは、子どもが成功しやすくなるように出す手助けやヒントです。シェイピングは、今できている小さな行動を出発点にして、少しずつ目標行動へ近づけていく方法です。どちらも、子どもに失敗を重ねさせるのではなく、「できた」という経験を積みながら学びを進めるための技術です。

目次

教える前に大切なのは「できない理由」を決めつけないこと

子どもが行動しない時、大人はつい「やる気がない」「分かっているのにやらない」と受け取りたくなることがあります。けれど、ABAの視点では、まず観察できる行動から考えます。

たとえば「片づけて」と言われても動かない子がいたとします。この子は片づけの意味が分からないのかもしれません。箱の場所が分からないのかもしれません。ブロックを持つことはできても、箱に入れる動作がまだ難しいのかもしれません。あるいは、片づけた後に楽しいことが終わってしまう経験が多く、片づけ自体が嫌な合図になっているのかもしれません。

同じ「動かない」に見えても、背景は一つではありません。だからこそ支援者は、「この子はどの部分でつまずいているのか」「成功するためには、どのくらいの手助けが必要なのか」を見る必要があります。

プロンプトとシェイピングは、子どもを急かす技術ではありません。子どもの現在地に合わせて、成功しやすい道筋を作る技術です。

プロンプトとは何か

プロンプトとは、子どもが課題を正しく行えるように、行動の前や行動の途中で支援者が出す手助けやヒントのことです。

たとえば、ブロックを箱に入れる行動を教えたい時、支援者が箱を指さす、見本を見せる、子どもの手にそっと手を添える、写真カードを見せるといった関わりがプロンプトになります。

大切なのは、プロンプトの目的です。プロンプトは、大人の指示に従わせるための圧力ではありません。子どもが間違う前に成功しやすくし、その直後に強化するための準備です。

この考え方は、エラーレス・ラーニングとも関係します。エラーレス・ラーニングとは、誤りをできるだけ少なくしながら学習を進める考え方です。子どもが何度も失敗し、そのたびに訂正されると、課題そのものを避けやすくなることがあります。反対に、適切な手助けで成功し、「できたね」と認められる経験が増えると、子どもは次もやってみようとしやすくなります。

プロンプトには強さの違いがある

プロンプトには、手助けの強さがあります。一般的には、身体的な手助けほど手厚く、視覚的なヒントや環境の手がかりほど自立に近い支援になります。

代表的なプロンプトを整理すると、次のようになります。

種類 内容
身体プロンプト 子どもの体に直接手を添えて動作を助ける 手を添えてブロックを箱へ運ぶ
部分的身体プロンプト 肘や手首などを軽く支える 手首を少し支えてコップを傾ける
モデルプロンプト 支援者が見本を見せる 大人が先にブロックを箱へ入れる
ジェスチャープロンプト 指さしや身振りで示す 箱を指さして片づけを促す
言語プロンプト 言葉でヒントや指示を出す 「次は箱に入れるよ」と伝える
視覚プロンプト 写真、絵カード、手順表などで示す 箱に片づけの写真を貼る

ここで新人指導員が迷いやすいのは、「どれを使えばよいか」です。

基本は、子どもが成功できる範囲で、できるだけ少ない手助けを選びます。支援が弱すぎると失敗が増えます。一方で、支援が強すぎると、子どもが自分で考えたり動き始めたりする機会が減ります。

たとえば、子どもがブロックを持てるけれど箱に入れるところで止まるなら、最初から手を重ねて全部動かす必要はないかもしれません。箱を指さす、箱を少し近づける、見本を見せるだけで成功できる場合もあります。

プロンプトは「多ければ親切」ではありません。ちょうどよい手助けを選ぶことが支援者の専門性です。

プロンプトとフェイディングの流れ

フェイディングを忘れると「プロンプト待ち」が起きる

プロンプトを使う時に最も大切なのが、フェイディングです。フェイディングとは、子どもができるようになってきたら、手助けを少しずつ減らしていくことです。

なぜフェイディングが必要なのでしょうか。

プロンプトを出し続けると、子どもは「大人が言うまで待つ」「手を添えられるまで動かない」という状態になりやすくなります。これをプロンプト依存と呼びます。プロンプト依存とは、行動そのものではなく、大人の手助けや指示が出ることを待ってしまう状態です。

たとえば、毎回「箱に入れてね」と言われてから片づける子がいたとします。この場合、片づけの行動はできているように見えますが、「遊びが終わったら自分で箱に入れる」という自立した行動にはまだなっていないかもしれません。

支援のゴールは、子どもが大人の合図に反応することだけではありません。必要な場面で、自分から行動できるようになることです。

フェイディングでは、手厚い支援から徐々に軽い支援へ移します。たとえば、コップで水を飲む練習なら、最初は手を添えてコップを持つところから始め、次に手首だけ支え、次にコップを指さし、最後はコップが置いてある環境そのものが手がかりになるようにします。

この時、急に支援をなくす必要はありません。急に手助けを減らすと失敗が増え、子どもが不安になりやすいからです。成功が安定してきたら、ほんの少しだけ手助けを軽くする。この小さな調整を積み重ねることが大切です。

シェイピングとは何か

シェイピングとは、目標行動に少しでも近い行動を強化しながら、段階的に行動を育てていく方法です。日本語では、行動形成法や逐次近似法と呼ばれることもあります。

少し難しい言葉ですが、考え方はシンプルです。

いきなり完成形を求めるのではなく、「今できていること」から始めます。そして、目標に近づいた小さな変化を見つけて強化します。強化とは、その行動が今後も起きやすくなるような関わりをすることです。ほめる、好きな活動につなげる、達成感を共有するなど、その子にとって行動が増えやすくなる関わりを使います。

たとえば、自分の名前を言う練習を考えてみます。最終目標が「やまだたろう」と言えることだとしても、最初から完璧な発音を求めると、子どもにとって難しすぎる場合があります。

その子が「あー」と声を出せるなら、まず声を出したことを強化するかもしれません。次に「や」に近い音が出たら強化します。それが安定したら「やま」に近い音、さらに「やまだ」に近い音へと、少しずつ基準を上げていきます。

このように、シェイピングでは強化する基準を少しずつ変えていきます。いつまでも最初の基準だけを強化するのではなく、子どもの成功に合わせて、次の小さな目標へ進めるのです。

シェイピングで目標行動へ近づける流れ

プロンプトとシェイピングはどう使い分けるか

プロンプトとシェイピングは、別々に覚えるよりも、現場では組み合わせて考えると使いやすくなります。

プロンプトは、子どもが成功するための手助けです。シェイピングは、成功の基準を小さく設定し、少しずつ目標へ近づける方法です。

たとえば、手洗いを教える場面を考えます。「手を洗う」という行動は、蛇口をひねる、水で手をぬらす、石けんを取る、こする、水で流す、タオルで拭くという複数のステップから成り立っています。

このような複雑な行動では、シェイピングの考え方で目標を小さな段階に分けます。そのうえで、各ステップで必要なプロンプトを選びます。蛇口をひねるところだけ身体プロンプトが必要な子もいれば、手順表という視覚プロンプトがあれば進められる子もいます。

また、発語やコミュニケーションの支援でも同じです。子どもが「ちょうだい」と言うことを目標にする場合、最初は手を伸ばす、視線を向ける、声を出す、音に近い発声をする、といった段階をシェイピングで捉えます。その中で、必要に応じて大人がモデルを見せたり、絵カードを提示したりします。

大切なのは、「これはプロンプトか、シェイピングか」と分類にこだわりすぎないことです。現場で考えるべきなのは、「今のこの子にとって、成功できる次の一歩は何か」「その一歩を助けるヒントは何か」です。

NG対応とOK対応

プロンプトとシェイピングは、子どもの成功を増やすための技術です。ただし、使い方を間違えると、子どもが受け身になったり、課題を避けやすくなったりします。

NGになりやすい対応 OKに近づける対応
できるまで何度も同じ指示を繰り返す どこで止まっているかを見て、必要なヒントを出す
すぐに手を添えて全部やってしまう まず少ない手助けで成功できるかを見る
できなかった部分だけを注意する できた部分を見つけて強化する
一度できたらすぐ支援をなくす 成功が安定してから少しずつフェイディングする
完成形だけを求める 目標に近い小さな行動を強化する

特に新人指導員は、「早く成功させたい」という思いから、手助けを出しすぎることがあります。その気持ちは自然です。しかし、支援者が全部やってしまうと、子どもが自分で試す機会が減ります。

反対に、「自立してほしい」と思って手助けをまったく出さないと、失敗が続いて学習が止まることもあります。

支援は、出しすぎても、出さなすぎても難しくなります。だからこそ、観察しながら調整することが必要です。

個人ワーク:フェイディング計画を作ってみる

次の場面を思い浮かべてください。

まだ一人でコップを持って水を飲むことが難しい子がいます。最終目標は「自分でコップを持ち、水を飲み、机に戻す」ことです。

次の順番でメモしてみましょう。

  1. 今できていることは何か。
  2. どこで手助けが必要か。
  3. 最初に使うプロンプトは何か。
  4. 次にどのように手助けを減らすか。
  5. 自立に近づいた時、どんな強化をするか。

たとえば、最初は手を添えてコップを持つところから始めるかもしれません。次は手首だけを支える。次はコップを指さす。さらに次は、コップが見える位置に置かれているだけで飲めるようにする。こうした流れを考えると、支援者の関わりが場当たり的になりにくくなります。

このワークで大切なのは、きれいな計画表を作ることではありません。子どもの自立に向けて、手助けをどのように減らしていくかを事前に考えることです。

明日から試せる一歩

明日からできることは、一つだけです。

子どもが何かを「できない」と見えた時、すぐにもう一度指示を出すのではなく、「どの部分までならできているか」を一度観察してみてください。

ブロックを持つところまではできているのか。箱を見ることはできているのか。大人の見本があれば動けるのか。写真カードがあれば分かるのか。少し声を出せば、目標の言葉に近づいているのか。

この観察ができると、支援は「やらせる」から「育てる」に変わります。

プロンプトは、子どもを成功に導くための一時的な手助けです。フェイディングは、その手助けを減らして自立へ近づける考え方です。シェイピングは、今できる行動を出発点にして、目標行動を少しずつ育てる方法です。

どれも、子どもの「できない」を責めるためのものではありません。子どもの「できた」を見つけ、増やし、次の一歩につなげるための技術です。支援者がこの視点を持てると、教える場面は失敗の確認ではなく、成功体験を設計する場面になります。

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