総まとめ:知識を「実践の力」へ
基礎研修の集大成です。Aくんの事例を通して、アセスメントから支援計画の立案までの一連の流れをシミュレーションし、あなたの「支援力」を確かめましょう。
はじめに:知識から実践へ
ABA基礎研修、お疲れ様でした。皆さんはこの研修を通して、子どもの発達を支えるための専門的な知識と技術、そして専門家としての心構えを学んできました。
最終回である本日の目的は、それらの断片的な知識を、実際の支援場面で使える「統合された力」へと昇華させることです。そのために、一人の子どもの事例を通して、アセスメントから支援計画の立案までの一連の流れを、皆さんの力で実践していただきます。
これまで学んだ全ての「道具」を、自分の道具箱から取り出し、使いこなし、そして、仲間と協力して一つの支援の形を作り上げる。この経験が、皆さんの専門家としての大きな自信となるはずです。研修の最後には、これまでを振り返り、皆さんの今後の成長に繋がる個人の目標を設定します。
ケーススタディ:Aくんの支援について考えよう
基本情報
- 名前:Aくん(5歳・年中)
- 利用状況:週3回、児童発達支援を利用。普段は保育園に通っている。
- 主訴(保護者からの相談):保育園で、お友達とのトラブル(おもちゃの取り合い、叩いてしまうこと)が増えてきて心配。家では、自分の要求が通らないと、床にひっくり返って10分以上泣き叫ぶことがある。言葉の発達がゆっくりで、気持ちをうまく言葉にできないことが、トラブルの原因になっているのではないかと感じている。
アセスメント情報
- 認知・言語:発語は「ママ」「ブーブー」「いや」などの単語が中心。二語文はほとんど見られない。絵カードのマッチング(同じ絵を選ぶ)は可能。簡単な指示(「〇〇とって」など)は理解できる。
- 対人関係・社会性:人への関心はあり、支援者の後をついてくるなど、関わりを求める様子は見られる。他の友達が遊んでいると、じっと見ていることはあるが、自分から関わっていくのは苦手。
- 好きなこと(強化子候補):ミニカー(特に救急車)で遊ぶこと。プラレール。シャボン玉。体を動かすこと(特に高いところからのジャンプ)。
具体的なエピソード(ABCデータ)
- 場面① :自由遊びの時間。Bくんが楽しそうにプラレールで遊んでいた。Aくんは近くに行き、Bくんが使っていた先頭車両を無言で取った。Bくんが「返して!」と泣くと、Aくんは持っていた車両でBくんの腕を叩いた。支援者が仲裁に入り、Aくんを別の場所に連れて行った。
- 場面② :おやつの時間。おかわりを欲しがり、空になったお皿を支援者の前に置いた。支援者が「おやつはおしまいだよ」と伝えると、Aくんは椅子から転げ落ちるように床に寝転がり、手足をバタバタさせて大声で泣き叫び始めた。10分後、あまりに泣き止まないため、支援者がゼリーを一つだけ渡すと、泣き止んでそれを食べた。
- 場面③ :SSTの時間。「順番」をテーマに、一人ずつオモチャのマイクで自己紹介をする活動。Aくんは自分の番が終わった後もマイクを離さなかった。支援者が「次のお友達にどうぞしようね」とマイクに手を伸ばすと、Aくんは「いや!」と言ってマイクを強く握りしめた。
【グループワーク課題】支援計画を立案しよう
Step 1:アセスメント(現状分析)
- 問題となっている行動(標的行動)を、具体的・客観的な言葉で2つ定義してください。
- エピソード①~③を参考に、それぞれの標的行動について ABC分析 を行ってください。
- ABC分析から、それぞれの行動の機能(目的)は何であるか、 仮説 を立ててください。
Step 2:支援計画の立案
- それぞれの問題行動に対して、教えるべき代替行動は何ですか?
- 先行事象への介入(環境設定など)として、どんな工夫ができますか?(問題が起きにくくするための予防策)
- 後続事象への介入(分化強化など)として、どんな対応を計画しますか?(代替行動を強化し、問題行動を強化しないための対応)
Step 3:保護者・園との連携
- この支援計画について、保護者や園の先生にどのように説明し、どんな協力をお願いしますか?
【解答例】支援計画立案ワークショップ
Step 1:アセスメント(現状分析)
1. 標的行動の定義
- 標的行動1:他児が使用している玩具を、無言で奪い取る。抵抗されると、手や持っている物で相手の体を叩く。
- 標的行動2:要求(おかわり等)が拒否されると、床に寝転がり、1分以上泣き叫ぶ。
2&3. ABC分析と機能の仮説
場面①(プラレールを奪って叩く):
A (先行事象): Bくんがプラレールで遊んでいるのを見る。
B (行動): 無言で車両を取り、抵抗されると叩く。
C (後続事象): 支援者が仲裁に入る(注目が得られる)。
→ 機能の仮説:【要求】(おもちゃが欲しい)+【注目】(支援者の関心を引く)
場面②(床で泣き叫ぶ):
A (先行事象): おかわりを要求し、「おしまい」と伝えられる。
B (行動): 床で10分以上泣き叫ぶ。
C (後続事象): ゼリーをもらえた。
→ 機能の仮説:【要求】(ゼリーが欲しい)+【逃避】(「おしまい」という嫌な状況から逃れる)。特に、泣き叫んだ結果要求が通ったことで、この行動は強く強化されている。
Step 2:支援計画の立案
4. 代替行動
- おもちゃの要求:PECS®の考え方を応用し、「かして」の絵カードを相手に渡す練習をする。
- 終わりの受け入れ:「おしまい」のカードを提示されたら、「わかった」のジェスチャーや、支援者とハイタッチをして切り替える練習をする。
5. 先行事象への介入(予防)
- 視覚的支援:活動の前にスケジュールを見せ、「おやつ」の次に「おしまい」のカードがあることを予告し、見通しを持たせる。
- 事前準備:自由遊びの前に、支援者と一緒に「おもちゃを使いたい時は、『かして』のカードを使おうね」と練習し、約束する。
- タイマーの使用:おもちゃの貸し借りや活動の切り替えで、「あと1分でおしまいだよ」とタイマーを見せ、終わりの見通しを伝える。
6. 後続事象への介入(対応)
- 分化強化 (DRA):代替行動(カードを渡す、ジェスチャーをする)が少しでも見られたら、最大限褒めて要求を叶える(おもちゃを借りられるよう仲介する、別の好きな活動に切り替えるなど)。
- 消去:問題行動(叩く、泣き叫ぶ)に対しては、安全を確保した上で、要求を叶えたり過度な注目を与えたりしない。冷静に、一貫した対応を徹底する。
Step 3:保護者・園との連携
7. 連携計画
保護者へ:面談の機会を設け、Aくんの行動の背景にある「伝えたい気持ち」(行動の機能)を丁寧に説明します。「困らせたいのではなく、言葉でうまく伝えられないから行動で表現している」という視点を共有し、保護者の心配事に寄り添います。その上で、事業所で行っている代替行動の練習(絵カードやジェスチャー)を紹介し、家庭でも一貫した対応ができるよう、「おしまい」の視覚的支援ツールの提供や、かんしゃくが起きた際の対応(消去の重要性)について、協力を依頼します。
保育園へ:保育所等訪問支援などを活用し、園の先生方と直接話す機会を作ります。まずは園でのAくんの様子を詳しく聞き、先生方の困り感を十分に理解します。その上で、事業所でのアセスメント結果(行動の機能)と支援計画を共有します。「かして」の絵カードなど、園の集団生活の中でも無理なく使える具体的な支援ツールを提案し、先生方と一緒に使い方を練習し、連携して般化を目指します。
これまでの振り返りとこれからの目標設定
1. これまでで、あなたができるようになったこと、成長したと感じることは何ですか?
(例:ABC分析の視点で子どもの行動を見られるようになった、保護者の話に傾聴できるようになった、など)
2. 現在のあなたの課題は何ですか?もっとうまくなりたい、学びたいと感じることは何ですか?
(例:SSTの進行、個別支援計画の目標設定、とっさの時の応用力、など)
3. 今後、職員として、どんな専門家になりたいですか?そのために、明日から具体的に何を始めますか?
(例:〇〇に関する本を月1冊読む、先輩の支援を意識的に観察し質問する、など)
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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