【基礎編】第5回 問題行動はメッセージだ!
機能的アセスメントで子どもの心を科学的に読み解き、「困った」を「なるほど!」に変える方法
はじめに:行動は「メッセージ」である
私たちは、子どもの叩く、叫ぶ、物を投げるといった行動を目の当たりにすると、つい「問題行動」と捉え、それを止めさせることに意識が向きがちです。しかし、ABAではその視点を180度転換します。
「すべての行動には、理由(機能)がある」
子どもたちは、私たちを困らせるためにその行動をしているのではありません。彼らなりの方法で、何かを伝えようとしています。言葉で「助けて」「見て」「やめたい」と伝える代わりに、行動でメッセージを発しているのです。
私たちの役割は、その行動を罰することではなく、行動の裏に隠されたメッセージを解読する「行動探偵」になることです。そのための科学的なプロセスが「機能的アセスメント」です。
なぜ行動するのか?:4つの機能(目的)の復習
第3回で学んだように、行動の「機能(目的)」は、大きく4つに分類されます。一見「問題」に見える行動も、必ずこのいずれかの機能を持っています。
| 機能(目的) | メッセージ(子どもの心の声) | 具体的な問題行動の例 |
|---|---|---|
| ① 要求 (Access) | 「あれが欲しい!」「〇〇がしたい!」 | ・おもちゃ売り場で床に寝転がって泣く。 ・他の子が使っているミニカーを、いきなり奪い取る。 |
| ② 注目 (Attention) | 「こっちを見て!」「私にかまって!」 | ・支援者が電話をしている間に、奇声を発する。 ・わざとコップの水をこぼして、先生の反応を見る。 |
| ③ 逃避 (Escape) | 「これをやりたくない!」「この場所から逃げたい!」 | ・お片付けの時間になると、「お腹が痛い」と言う。 ・難しい課題プリントを目の前に置かれると、破ってしまう。 |
| ④ 感覚 (Sensory) | 「これが気持ちいい!」「この刺激が落ち着く!」 | ・自分の指を噛む。 ・体を前後に揺らし続ける。 ・高いところから何度も飛び降りる。 |
【最重要ポイント】
行動の「見た目(形)」と「目的(機能)」は違うということを、常に意識してください。
例えば、「机を叩く」という同じ行動でも、先生に見てほしくて叩く(→注目)、課題をやめたくて叩く(→逃避)、叩いた時の音や振動が楽しくて叩く(→感覚)というように、機能が全く異なる場合があります。機能が違えば、当然、効果的な対応も異なります。
機能的アセスメントの進め方:行動探偵の捜査手順
機能的アセスメントは、主に3つのステップで進められます。
1標的行動を明確に定義する
「暴れる」「パニックになる」といった曖-昧な言葉ではなく、誰が見ても同じ光景を思い浮かべられるように、具体的・客観的な言葉で行動を定義します。
(例)「床に仰向けに寝転がり、両手両足をバタバタさせながら、1分以上泣き叫ぶ」
2情報を集める(聞き込みと張り込み)
- 間接的アセスメント(聞き込み調査):保護者や担当スタッフなど、子どものことをよく知る人に面接したり、質問紙に答えてもらったりして情報を集めます。
- 直接的アセスメント(張り込み調査):子どもがいるその環境で、実際に標的行動が起きている場面を直接観察し、データを取ります。最も信頼性の高い情報源であり、今回の研修のメインテーマです。この時に使う最大の武器が「ABCデータ収集」です。
3データからパターンを分析し、仮説を立てる
集めたABCデータを複数見比べ、「どんな状況(A)の時に、その行動(B)が起きやすく、その結果どうなっている(C)ことが多いか」というパターンを探します。
パターンから、「この行動の機能は、おそらく〇〇だろう」という仮説(かせつ)を立てます。この仮説が、後の支援計画の土台となります。
精度の高い情報収集:ABCデータの取り方
質の高い仮説は、質の高いデータからしか生まれません。ABCデータを取る際は、自分の解釈や感情を入れず、ビデオカメラになったつもりで、客観的な事実のみを記録します。
【ABC記録用紙の例】
| 日時 | A:先行事象 | B:行動 | C:後続事象 | 機能の仮説 |
|---|---|---|---|---|
| 〇/〇 10:15 | 自由遊びの時間。支援者が他の子と話していた。 | 突然「キーッ」と甲高い声を出す。 | 支援者が「静かにね」と言って、Bくんの方を見た。 | 注目 |
| 〇/〇 14:20 | 課題の時間。Bくんの前にパズルが置かれた。 | 椅子から立ち上がり、部屋の隅に行った。 | 支援者が「どうしたの?」と追いかけた。結果、パズルは中断された。 | 逃避 |
| 〇/〇 15:30 | おやつの時間。Bくんは食べ終わり、おかわりを要求したが「おしまい」と伝えられた。 | 床に寝転がり、泣き叫んだ(約2分)。 | 支援者がそばに座り、背中をさすった。「悲しいね」と声をかけた。 | 注目 or 要求 |
記録のコツ:良い例と悪い例
NGな記録(解釈や感想)
- A:Bくんがイライラしていた。
- B:かんしゃくを起こした。
- C:先生が優しく対応した。
OKな記録(客観的な事実)
- A:Bくんが使っていたミニカーを、他の子に取られた。
- B:床に座り込み、自分の頭を手のひらで5回叩いた。
- C:先生が「大丈夫だよ」と言って、Bくんを抱きしめた。
【実践ワーク】あなたも行動探偵!
ある日のCちゃんの様子です。この場面をABCに分けて記録し、考えられる機能の仮説を立てて、グループで話し合ってみましょう。
「Cちゃんは、お絵描きの時間、楽しそうに絵を描いていました。そこへ支援者が近づき、『すごいね!上手だね!』と頭を撫でました。するとCちゃんは、突然クレヨンを床に投げつけ、自分の席から離れてしまいました。」
【分析のヒント】
- A(先行事象):支援者が近づき、頭を撫でた
- B(行動):クレヨンを投げ、席を立った
- C(後続事象):支援者からの接触(頭を撫でられること)が終わった
この分析から、機能の仮説は何になりそうでしょうか?…そう、『逃避』の可能性が高いですね。Cちゃんは、もしかしたら褒められることや、体に触れられることが苦手で、その嫌な状況から『逃避』するために、クレヨンを投げるという行動に出たのかもしれない、と仮説が立てられます。
アセスメントから支援へ
機能に関する仮説が立てられたら、ようやく具体的な支援を考えることができます。重要なのは、問題行動をただ消すのではなく、同じ機能を持つ、より適切な行動(代替行動)に置き換えることです。
(仮説)機能が逃避なら → (支援)「休憩をください」とカードで伝える練習をする。
(仮説)機能が注目なら → (支援)「先生、見て」と肩を叩いて呼ぶ練習をする。
(仮説)機能が要求なら → (支援)「〇〇が欲しい」と指差しや言葉で伝える練習をする。
(仮説)機能が感覚なら → (支援)安全な形で同様の感覚が得られる代替行動を提案する(例:体を揺らす代わりにバランスボールを使う、噛む代わりに噛めるおもちゃを使う)。
この具体的な支援計画については、次回の研修で詳しく学びます。
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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