【基礎編】第2回子どもの行動のエンジンを動かす!「強化」の理論と実践
子どもの「できた!」を自信につなげ、やる気を引き出す科学的アプローチ「強化」。その理論と実践方法を、ABA(応用行動分析)の視点から分かりやすく解説します。
はじめに:行動の「エンジン」を動かす
前回の記事では、行動の仕組みを「A(先行事象)→B(行動)→C(後続事象)」というABC分析で捉えることを学びました。行動は、その直後の結果(C)によって、未来に起きやすくなったり(増えたり)、起きにくくなったり(減ったり)します。
今回学ぶ「強化(きょうか)」とは、望ましい行動を未来に起きやすくする(増やす)ための、ABAの根幹をなす最も重要な手続きです。
「強化」を理解し使いこなすことは、子どもの行動の「エンジン」をかけ、やる気や「できた!」という自信を引き出すための鍵となります。私たちは、子どもを力ずくで動かすのではなく、この「強化」の原理を使って、子どもの自発的な成長を後押ししていきます。
「強化」の絶対的なルール
支援者が「褒めたつもり」でも、
子どもの行動が増えなければ、
それは「強化」ではない。
大切なのは意図ではなく、あくまで「行動が増えたか」という客観的な結果です。
【補足】なぜこのルールが重要なのか?
私たちの意図ではなく、「結果として、行動が増えたかどうか」が全て、というのが最も大切なルールです。例えば、私たちがAくんに良かれと思って「すごいね!」と声をかけたとします。でも、もしAくんが注目されるのが苦手な子で、その声かけが不快だったとしたらどうでしょう。次からその行動は増えるどころか、減ってしまうかもしれません。その場合、私たちの声かけは「強化」ではなかった、ということになります。常に「この関わりで、この子の望ましい行動は増えたかな?」と、子どもの行動の変化を客観的に見る視点を持ち続けることがプロの支援には不可欠です。
2種類の強化:「足し算」と「引き算」
強化には、子どもの行動を増やすための2つのアプローチがあります。「良いことを足す」正の強化と、「嫌なことを引く」負の強化です。それぞれの仕組みを見ていきましょう。
① 正の強化(快の足し算)
最も基本的で、私たちが積極的に使っていくべきアプローチです。ある行動の直後に、その子にとって嬉しい刺激(ご褒美や快いこと)が「足される(出現する)」ことで、その行動が増えることを指します。
- (B)子どもが「かして」と言えた → (C)先生が笑顔で「すごいね!」と褒め、おもちゃを渡した。
- (B)子どもが一人で靴を履けた → (C)好きなシールを1枚もらえた。
- (B)子どもが椅子に座って課題に取り組んだ → (C)活動の後に、大好きなブランコで遊ぶ時間がもらえた。
② 負の強化(不快の引き算)
この概念は「罰」と混同されやすいため、正確に理解することが重要です。ある行動の直後に、その子にとって嫌な刺激(不快なこと)が「引かれる(なくなる)」ことで、その行動が増えることを指します。
- (望ましい例)騒がしい部屋で「外に行きたい」と伝えた → 嫌な騒音から逃れられた。
- (不適切な例)嫌いなピーマンが出て泣き叫んだ → 親がピーマンを片付けた。
- (不適切な例)難しい課題で「できません」と鉛筆を置いた → 先生が課題を下げた。
注意点:「負の強化」は、私たちの意図しないうちに、不適切な行動を増やしてしまう原因になりがちです。支援の現場では、基本的に「正の強化」を戦略の中心に据え、ポジティブな関わりで望ましい行動を増やしていくことを目指します。
【コラム】”強化”と”賄賂(わいろ)”の違い
時々、「ご褒美で行動を促すのは、賄賂と同じではないか?」という疑問が出ます。この二つは似て非なるものです。決定的な違いは『タイミング』と『目的』です。私たちは、賄賂ではなく、一貫したルールに基づいた「強化」を使います。
| 強化 | 賄賂 | |
|---|---|---|
| 目的 | 望ましい行動を教え、育てる | 不適切な行動をその場で止める |
| タイミング | 行動が起きた「後」 | 行動が起きている「最中」 |
| 例 | 「靴を履けたら、シールを貼ろうね!」 | 「(床で泣き叫んでいる子に)泣き止んだら、お菓子をあげるから!」 |
行動のガソリン:「強化子」を見つけよう!
「強化子(きょうかし)」とは、「強化」のプロセスで使われる、行動を増やす力を持つ具体的な「ご褒美」(物、活動、言葉など)のことです。
大原則:何が強化子になるかは、その子自身が決める。大人が「これは喜ぶだろう」と思い込んではいけません。Aくんにとっての強力な強化子(ミニカー)が、Bさんにとっては全く魅力的でないことはよくあります。
強化子の見つけ方:名探偵になろう!
- 観察する(一番重要!):自由な時間に、その子がどんな遊びを好み、どんな物を使っているか、どんな表情をしているかをよく観察します。
- 選択肢を提示する:「どっちで遊びたい?」と2つ以上の物や活動を提示し、子ども自身に選んでもらいます。
- 本人や保護者に聞く:言語的なコミュニケーションが取れる子であれば、「今、何がしたい?」と直接聞いたり、保護者の方に家での好きな遊びなどをヒアリングしたりします。
社会的強化子
人との関わりの中で生まれるもの。人間関係の中で自然に使える、最も大切な強化子です。
褒め言葉、笑顔、ハイタッチ、ハグ
活動強化子
子どもが好む「活動」。
ブランコ、散歩、動画視聴
物的強化子
具体的な「物」。特に食べ物は効果が強いですが、頼りすぎない注意が必要です。
シール、おもちゃ、お菓子
【グループワークに挑戦!】
ここで皆さんに名探偵になってもらいます!
『電車が大好きで、体を動かすのも好きなAくん(4歳)』がいます。
このAくんの望ましい行動を増やすために使えそうな「強化子」を、3つの種類(社会的、活動、物的)に分けて、できるだけたくさんリストアップしてみてください。
(考え方のヒント)
「電車の図鑑を見せる(物的)」「電車ごっこをする(活動)」「すごい!電車の博士だね!(社会的)」など、一人の子に対しても、これだけ多くの強化子の可能性があります。これを引き出しに持っておくことが、支援の幅に繋がります。
強化を効果的に使うための「5つのルール」
強化子が見つかっても、使い方を間違えると効果は半減します。プロとして、以下の5つのルールを徹底しましょう。
① 即時性(そくじせい):行動の直後すぐに!
行動の直後(1~2秒以内)にすぐ提供します。時間が経つと、何に対して褒められたのか分からなくなってしまいます。例えば、子どもがお片付けを全部終えて5分後に褒めるより、片付けをしているその場で「箱に入れられたね!すごい!」と実況中継するように褒めるのが理想です。
② 随伴性(ずいはんせい):決めた行動の時だけ!
決めた行動が起きた時だけ提供します。「なんとなく」や「可哀そうだから」と、行動と無関係に与えてはいけません。ルールの一貫性が大切です。
③ 具体性(ぐたいせい):具体的に褒める!
「すごいね!」「良い子だね」という漠然とした言葉だけでなく、「ブロックを上手に積めたね!」「〇〇くんが、△△してくれたから、先生とっても助かったよ!」と、どの行動が良かったのかを言葉で伝えます。これにより、子どもの自己肯定感も育っていきます。
④ 変化(へんか):飽きさせない工夫!
いつも同じ強化子だと、子どもは「飽きて」しまいます(これを専門用語で「飽和」と言います)。強化子のメニューを複数用意し、その時の子どもの気分に合わせて変化を持たせましょう。
⑤ 大きさ(おおきさ):頑張りに見合った量!
子どもの頑張りに見合った「量」を考えます。簡単なことには小さな称賛、難しいことに挑戦できたら、少し特別な強化子を提供するなど、メリハリをつけることが効果的です。
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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