宝物さがしの科学:フリーオペラント観察ガイド
子どもの「大好き!」をデータで発見し、「勘」を「確信」に変えるためのアセスメント技術です。
はじめに:支援は「正しいアセスメント」から始まる
「アセスメント」とは、支援を始める前に、子どものことを正しく知るための「評価」や「情報収集」のことです。適切なアセスメントがなければ、支援はただの「勘」や「思い込み」になってしまいます。特に、前回学んだ「強化」を効果的に行うためには、その子のやる気の源である「強化子」が何かを正確に把握する必要があります。
なぜ「聞くだけ」では不十分なのか?
言葉でうまく表現できない
いつも同じ答えになりがち
その時の気分で答えが変わる
そこで、プロの支援者である私たちは、子どもの「言葉」ではなく「行動」から直接、本心(好み)を読み解くための観察技術を使います。それが「フリーオペラント観察」です。
支援の質を左右するアセスメント
勘・思い込み
↓
効果の薄い支援
科学的な
アセスメント
↓
効果的な支援
フリーオペラント観察とは?
【定義】
子どもが自由に(フリーに)、誰からの指示も制限もなく、環境の中にある様々な物や活動に働きかける(オペラント)様子を、体系的に観察・記録するアセスメント方法です。
【目的】
大人の思い込みを排除し、子どもが自発的に何に興味を示し、どれくらいの時間それに関わるかをデータとして収集することで、効果的な強化子のリスト(メニュー)を作成すること。
簡単に言えば、「子どもの自由な遊び姿の中に、宝物(強化子)を見つけるための、科学的な観察」です。
これは、例えるなら「人気のおもちゃランキング調査」です。お店にたくさんのおもちゃを並べて、子どもたちがどのコーナーに一番長く滞在するかを調べるようなものです。長く滞在するコーナーのおもちゃは、人気が高い、つまり、その子にとって魅力的な強化子である可能性が高い、ということになります。大人の「これが好きだろう」という思い込みを一旦横に置いて、子どもの行動という客観的なデータに耳を傾ける。これが、科学的支援の第一歩です。
フリーオペラント観察の構成要素
フリー
(自由に)
+
オペラント
(働きかける)
=
科学的な観察
(強化子の発見)
観察の3ステップ
Step 1:環境の準備
子どもが興味を示しそうな、様々な種類のおもちゃや活動を、子どもが自由に手に取れるように配置します。(例:ブロック、ミニカー、パズル、絵本、お絵描きセット、音の出るおもちゃなど)
【ポイント】
魅力的なおもちゃを複数、子どもが自由に選べるように配置することが重要です。おもちゃ箱に全部入っている状態では、上にあるものしか手に取らないかもしれません。床や棚に、バランスよく配置してあげましょう。この時、支援者は指示や声かけを一切しません。環境だけを整え、子どもの自発的な行動を待ちます。
Step 2:観察と記録
子どもが部屋に入ってから、「何(どのおもちゃ)に」「どれくらいの時間」関わったかを、ストップウォッチなどを使って計測し、記録用紙に記入します。関わり方(ポジティブな発声、表情など)もメモしておくと、より質の高い情報になります。観察時間は、5分~10分程度を目安に行います。
Step 3:データの解釈と活用
観察記録を集計し、関わった時間の合計が長いものほど、その子にとって強力な強化子である可能性が高いと仮説を立てます。この結果を基に、「強化子メニュー」を作成し、支援の中で「課題を頑張ったら、ミニカーで遊ぼう!」といった形で活用します。一度だけでなく、日や時間を変えて複数回行うことで、より信頼性の高いデータが得られます。
ケーススタディ①:〇〇くんの観察データ
観察記録(10分間)
| 時間(秒) | 対象 | メモ |
|---|---|---|
| 0~45 | ミニカー(赤) | 笑顔で走らせる |
| 46~70 | ブロック(青) | すぐやめる |
| 71~200 | ミニカー(赤) | 壁に走らせる |
| 201~250 | 絵本(電車) | 指差しをする |
| 251~380 | ミニカー(赤) | 他の車を並べる |
| 381~450 | 窓の外 | 救急車を見る |
| 451~600 | ミニカー(赤と黄) | 再び遊び始める |
データからわかる「大好き!」の度合い
記録をグラフ化すると、〇〇くんの好みが一目瞭然です。『ミニカーが好きなんだろうな』という感覚が、『10分中5分以上も遊ぶほど、強い好みである』という客観的な事実に変わります。
観察の重要ポイント
支援者は「空気」になる
観察中は、子どもの視界に入らないようにしたり、話しかけたり、視線を合わせたりしないようにします。大人の存在が、子どもの自然な行動を妨げてしまう可能性があるからです。
「関わり」の定義を決める
ただ触っているだけか、それを使って遊んでいるのか。事前に「〇秒以上、対象に視線を向け、手で操作している状態」など、記録のルールを決めておくと、誰が観察しても同じ精度のデータが取れます。
安全への配慮は怠らない
観察中も、子どもの安全からは決して目を離さないでください。危険な行動があれば、もちろん介入します。
【グループワーク】B子さんのデータ分析
ここに、B子さん(5歳)の10分間のフリーオペラント観察のデータがあります。このデータから、B子さんの強化子を特定し、支援のアイデアを考えてみましょう。
考えてみよう!
- このデータから、B子さんにとって最も強力な強化子、2番目に強力な強化子は何だと考えられますか?
- その強化子を、どんな支援場面で活用できそうか、具体的なアイデアを考えてみてください。
(ヒント)「苦手な着替えを頑張った後に、キラキラペンでお絵描きをする」「静かに座っていてほしい時に、お膝にぬいぐるみを乗せてあげる」など、具体的な支援の引き出しが、このデータからわかります。
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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