支援の羅針盤と航海日誌
プロフェッショナルな支援は、「行き当たりばったり」ではありません。明確な計画と客観的な記録こそが、子どもの成長を支えるための最も重要なツールです。
はじめに:なぜ「計画」と「記録」が不可欠なのか?
これまでの研修で、私たちは子どもの行動を科学的に理解し、支援するための様々な「道具(ABAの知識や技術)」を手に入れてきました。
しかし、どんなに良い道具を持っていても、「どこへ向かうのか(目標)」 が定まっていなければ、支援はただの行き当たりばったりになってしまいます。また、 「どんな道のりを歩んできたのか(経過)」を記録しなければ、チームで情報を共有することも、支援が正しかったのかを振り返ることもできません。
個別支援計画は、私たちの支援の「羅針盤であり、設計図」です。そして、日々の支援記録は、その設計図通りに支援を進め、航路を確かめるための「航海日誌」なのです。これらは、私たちの支援がプロフェッショナルなものであるための根幹をなす、極めて重要な業務です。
支援の心臓部:PDCAサイクル
個別支援計画とは?
子ども一人ひとりの発達状況や特性、本人および保護者の意向を踏まえ、支援の目標(ゴール)と、その達成に向けた具体的な支援内容・方法を定めた、個別の計画書のことです。これは、単なる「書類」ではありません。子ども、保護者、そして私たち支援者全員が、同じゴールを目指して進むための「共通の地図」です。
計画を動かし続けるPDCAサイクル
個別支援計画は、一度作ったら終わりではありません。子どもの成長に合わせて、常に見直しと改善を繰り返す「PDCAサイクル」で動いています。
P
Plan (計画)
アセスメントに基づき、目標と支援内容を計画する。
D
Do (実行)
計画に基づいて、日々の支援を実践する。
C
Check (評価)
記録を通じて、計画の効果を客観的に評価する。
A
Act (改善)
評価に基づき、計画を修正し、次の計画へ繋げる。
「良い目標」の立て方:支援の方向性を決める
PDCAの「P(計画)」で最も重要なのが、目標設定です。曖昧な目標は、曖昧な支援しか生みません。
長期目標
1年後など、少し先の未来で達成したい、大きな姿(ビジョン)です。
例:「友達との関わりの中で、自分の気持ちを適切な方法で伝えられるようになる」
短期目標
長期目標を達成するために、数ヶ月単位でクリアしていく、具体的な小さなステップ。この短期目標こそが、日々の支援の道しるべとなります。
良い短期目標のポイント (SMART)
良い短期目標を立てるには、以下の5つのポイント(SMART原則)を意識することが重要です。
S
Specific
具体的か?
M
Measurable
測定可能か?
A
Achievable
達成可能か?
R
Relevant
関連性はあるか?
T
Time-bound
期限は明確か?
悪い目標 vs 良い目標
SMARTを意識して、悪い目標を良い目標に書き換えてみましょう。
悪い例 ❌
コミュニケーション能力を高める
良い例 ✅
自由遊びの時間に、おもちゃの貸し借りで「かして」または「どうぞ」と、1日1回以上言えるようになる。(期限:3ヶ月)
悪い例 ❌
落ち着いて過ごせるようにする
良い例 ✅
朝の会で、自分の席に5分間座り続けることができる。(期限:3ヶ月)
悪い例 ❌
偏食をなくす
良い例 ✅
嫌いなニンジンを、スプーンに乗せて口に触れることができたらOKとする。(期限:3ヶ月)
【実践ワーク】短期目標を立ててみよう!
ケース:Cちゃん(4歳)。お友達と遊びたい気持ちはあるが、関わり方が分からず、いつもお友達の作っているブロックを壊してしまい、トラブルになる。
グループで考えてみよう!
このCちゃんのために、「具体的で、測定可能な」短期目標を一つ、グループで考えてみてください。
【目標案のヒント】
「ブロック遊びの時、壊さずにお友達の隣で5分間、自分もブロックで遊ぶことができる」
「お友達のブロックに手が出る前に、『いれて』の絵カードを支援者に渡すことができる」
どちらも具体的で、何をすべきかが明確ですね。
支援記録:チームを繋ぐ客観的な「事実」のバトン
なぜ記録するのか?
- チームへの情報共有:職員Aしか知らない、ではチーム支援になりません。記録を通して、全員が同じ情報を共有します。
- 支援の客観的な評価:「最近、成長した気がする」という感覚ではなく、「〇〇という行動が、週1回から週5回に増えた」という事実で成長を捉えます。
- 保護者への説明責任:どんな支援を、どんな目的で行ったかを、事実に基づいて説明できます。
- 私たち自身を守るため:万が一の事故やトラブルの際に、適切な対応をしたことの証明になります。
記録の鉄則:主観(解釈)ではなく、客観(事実)を書く
支援記録は、小説や感想文ではありません。ビデオカメラで撮影した映像を、そのまま文章に起こすようなイメージで、「いつ、どこで、誰が、何を、どうしたか」という客観的な事実だけを記述します。
【場面】おやつの時間、Aくんが隣のBくんのクッキーを取ってしまった。
悪い記録 ❌(主観・解釈)
Aくんが、Bくんのクッキーをわざと取った。Bくんは可哀そうに泣き出してしまった。Aくんは反省していない様子だったので、きちんと叱った。
良い記録 ✅(客観・事実)
15:10、おやつの時間。Aくんが、隣の席のBくんの皿からクッキーを1枚取った。取られた後、Bくんは「わーん」と声を出して泣き始めた。職員が「Aくん、おクッキーどうする?」と声をかけると、Aくんはクッキーを持ったまま、職員の顔を見ていた。
児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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