「ドリル」から「遊び」の学びへ
机の上で覚えたスキルを、生活の中で使える「生きたスキル」に変える。それが自然主義的行動発達アプローチ(NBDI)の考え方です。
はじめに:療育は「訓練」の時間だけではない
これまでの研修で、私たちは特定のスキルを教えるための様々な技術(プロンプトやシェイピングなど)を学んできました。それらは多くの場合、机に向かって1対1で集中して行うような、構造化された環境で非常に有効です。これを「DTT(ディスクリート試行法)」的なアプローチと呼びます。
しかし、子どもたちの生活は、机の上だけで完結するわけではありません。子どもたちは、遊び、食事、着替え、移動といった、流動的で「自然な生活」の中で生きています。
私たちが目指す最終ゴールは、子どもが学んだスキルを日常生活のあらゆる場面で自発的に使えるようになること(般化)です。そのためには、構造化された教え方だけでなく、遊びや生活といった自然な文脈の中で発達を促していくアプローチが不可欠になります。その代表的な考え方が「NBDI(エヌビーディーアイ)」です。
NBDI(自然主義的行動発達アプローチ)とは?
NBDIとは、Naturalistic Behavioral Developmental Interventionsの略で、日本語では「自然主義的行動発達アプローチ」などと訳されます。
ABAの原理を、子どもの自発的な興味・関心や、日常生活の自然な流れ(文脈)の中に組み込んで、コミュニケーションや社会性などのスキルを教えていくアプローチの総称です。
NBDIの核心的な考え方
- 「教える」から「学びを引き出す」へ:大人が設定した課題を子どもにやらせるのではなく、子どもが今、興味を持っていること(遊び)に大人が寄り添い、その流れの中で自然に学びの機会を埋め込んでいきます。
- 子どもの「やりたい!」が最強のエンジン:子どもの内発的な動機づけ(モチベーション)を何よりも重視します。子どもが「楽しい!」「もっとやりたい!」と感じる中でこそ、スキルは最も効果的に習得され、般化しやすくなります。
DTT vs NBDI:車の両輪
DTT(ディスクリート試行法)とNBDIは、どちらが良い/悪いというものではなく、目的や子どもの状態に応じて使い分ける、車の両輪のようなものです。それぞれの特徴を理解しましょう。
DTT:個別指導塾モデル
- 主導権:大人主導。大人が課題や教材を決める。
- 場面:机上など、構造化された場面。
- ご褒美:行動と無関係なことが多い(例:課題ができたらシール)。
- 得意なこと:物の名前など、特定の知識を正確に教える。
NBDI:ホームステイモデル
- 主導権:子ども主導。子どもの興味関心から始まる。
- 場面:遊びや食事など、自然な生活場面。
- ご褒美:行動と自然に結びつく(例:「ミニカー」と言えたらそれで遊べる)。
- 得意なこと:コミュニケーションの自発性を育む。
DTTは『個別指導塾での漢字ドリル』、NBDIは『海外でのホームステイ』とイメージすると分かりやすいでしょう。言葉の概念がまだない子に、まず『りんご』という単語そのものを教えるにはDTTが有効かもしれません。そして、『りんご』という言葉を覚えた子が、おやつの時間に本物のりんごを見て『りんご!』と自発的に言えるようになるのを促すのがNBDIです。私たちは両方のカードを手に持ち、子どもの状況に合わせて使い分ける専門家になる必要があります。
なぜNBDIが重要なのか?
① 般化を促進する
学ぶ場面が実生活なので、「練習」と「実践」が直結。学んだスキルが応用されやすい。「ミニカー」という言葉を、おもちゃのミニカーで遊んでいる時に学ぶからこそ、他の場面でもミニカーを見て「ミニカー」と言えるようになりやすいのです。
② 自発性を育む
「〇〇を言いなさい」という指示で話すのではなく、子どもが「あれが欲しい!」「あれを伝えたい!」と思った時に言葉を教えるため、コミュニケーションの自発性が育ちます。
③ ポジティブな関係を築く
大人が子どもの遊びに寄り添い、その世界を共有し、広げてあげる関わりは、子どもとの間に強い信頼関係(ラポール)を築きます。これは、すべての支援の土台となります。
【グループワーク】DTT的? NBDI的?
皆さんの現場での関わりを整理してみよう!
皆さんの事業所のある一日の流れ(例:朝の会、おやつ、自由遊び、おかえりの会など)を思い浮かべてください。その中で、「これはDTT的な関わりに近いな」「これはNBDI的な関わりだな」と思う場面を、それぞれ書き出してみてください。そして、なぜそう思うのかをグループで共有しましょう。
【考え方のヒント】
意識せずとも、私たちの支援は両方のアプローチを自然と使っています。「朝の会での日付の確認はDTT的」「自由遊びでのおもちゃの貸し借りの仲介はNBDI的」など、その目的を意識できるようになることが重要です。
NBDIの基本戦略:学びの機会を「仕掛ける」
NBDIは、ただ子どもと遊ぶ「子守り」とは違います。子どもの発達を促すプロとして、支援者が意図的に環境を操作し、コミュニケーションの機会を創出します。これを環境設定(Environment Arrangement)と呼びます。
物を手の届かない場所に置く
好きなミニカーを、見えるけど届かない棚の上に。子どもは「とって」と伝える必要が出てきます。これは意地悪ではなく、要求言語を使う機会のプレゼントです。
容器を固く閉めておく
シャボン玉の容器を、子どもの力では開けられない程度に固く閉めて渡す。「あけて」と要求する必要が生まれます。
一部を隠す・足りない状況を作る
パズルの最後の1ピースだけを支援者が持っておく。「ちょうだい」と要求する必要が生まれます。
この「環境設定」を始めとした具体的な実践テクニックは、次回の研修で詳しく学びます。
児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ
職員研修にご使用いただけるように、研修用テキスト資料と講師原稿を配布しております。
こちらからダウンロードしてください。
支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

コメント