【基礎編】第10回「伝わった!」が育むコミュニケーションの力

「伝わった!」が育むコミュニケーションの力

コミュニケーションは「おしゃべり」だけではありません。子どもの「伝えたい!」気持ちに寄り添い、その子に合った表現方法を見つけるための支援ガイドです。

目次

はじめに:コミュニケーションの「本質」とは?

「コミュニケーション」と聞くと、私たちはつい「言葉を流暢に話すこと」をイメージしがちです。しかし、その本質は「自分の意思を相手に伝え、相手の意思を理解すること」にあります。その手段は、言葉だけではありません。指差し、表情、身振り、絵カード、そして行動そのものも、すべてが大切なコミュニケーションの手段です。

ABAでは、このようなコミュニケーション行動全般を「言語行動(Verbal Behavior)」と呼びます。これは「話すこと」だけを指すのではなく、他者を介して自分の望む結果を得るための、あらゆる行動を含みます。

私たちの役割は、子どもにただ単語を暗記させることではありません。子どもが「伝えたい!」と思った時に、その子に合った方法で、その意思を表現する手助けをすることです。

言葉の「使い道」を知る:4つの言語行動

同じ「りんご」という言葉でも、その「使い道(機能)」は様々です。ABAでは、言語行動を主に以下の機能に分類して考えます。この視点を持つことで、子どものコミュニケーションをより深く理解できます。支援の出発点は、子どもの「やる気」に直結するマンド(要求)です。

① マンド (要求)

棚のりんごを指差し「りんご!(欲しい)」と伝える。言葉が便利な道具だと知るための最重要の機能です。

② タクト (報告)

絵本のりんごを指差し「りんご(だ)!」と報告する。語彙を広げ、世界を共有します。

③ エコーイック (模倣)

大人の「りんご」に続いて「りんご」と真似して言う。新しい言葉を教える入口です。

④ イントラバーバル (会話)

「好きな果物は?」→「りんご」と質問に答える。会話の幅を広げます。

言葉だけに頼らない支援:AACという命綱

「AAC(Augmentative and Alternative Communication:拡大代替コミュニケーション)」とは、話すこと以外の、コミュニケーションを補ったり、代わりになったりする、あらゆる方法のことです。

なぜ必要か?

言葉が出ないことで「伝えられない」という経験が続くと、子どもは意欲を失い、かんしゃくなどの問題行動に繋がることがあります。AACは、子どもに「伝わった!」という成功体験を保障し、コミュニケーション意欲を維持・向上させるために不可欠です。

代表例①:PECS® (絵カード交換式)

絵カードを相手に「渡す」ことで要求を伝える、自発性を重視した指導法です。自発性を最優先し、必ず「相手」にカードを渡す必要があるため、自然と他者を意識したコミュニケーションが成立します。研究により、PECSの使用が発語を促すことも示されています。

欲しいものを選ぶ

カードを相手に渡す

欲しいものがもらえる

代表例②:サインやジェスチャー

特別な道具が不要で、いつでもどこでも使える身体表現です。「ちょうだい」「おしまい」「もっと」など、日常生活で頻繁に使う言葉から導入するのが効果的です。

ちょうだい

もっと

おしまい

NBDIで「伝えたい!」気持ちを引き出す

自然な遊びや生活の中で、意図的にコミュニケーションの機会を作り出し、子どもの自発的な表現を育てていきます。

環境設定で仕掛ける

好きなおやつを透明な容器に入れ、蓋を固く閉めておく。「あけて」という要求の機会を創出します。

タイムディレイで待つ

子どもが何かを欲しそうにこちらを見たら、すぐに与えずに数秒待つ。自発的な声を促します。

表現を豊かにする

子どもが「ぶーぶー」と言ったら、「そうだね、『あかいブーブー』だね」と少し豊かなモデルを示します。

【グループワーク】実践に繋げる思考実験

【お題】
Aちゃん(3歳)。発語はまだない。ブランコが大好き。もっと揺らしてほしい時に、体を揺すって支援者の顔をじっと見つめてきます。

考えてみよう

  1. このAちゃんの行動は、どんな「メッセージ」だと考えられますか?
  2. このメッセージを、より分かりやすいコミュニケーション行動に育てるために、あなたならどんな支援を計画しますか?(PECS、サインなど、自由に考えてください)

解説・支援のヒント

1. Aちゃんのメッセージ(行動の機能)

体を揺すって顔を見る行動は、「もっとブランコを揺らしてほしい」という明確な【マンド(要求)】です。言葉の代わりに、彼女が今できる最大限の方法で「お願い」を伝えています。

2. 具体的な支援計画の例

  • サインを教える:
    Aちゃんが体を揺すったら、支援者はブランコを止め、「もっと?」と聞きながら【もっと】のサインをやってみせます(モデリング)。Aちゃんの手をそっと取って一緒にサインをやってあげ(プロンプト)、できたらすぐに「そうだね、もっとだね!」と言ってブランコを揺らします。これを繰り返すことで、体を揺するよりサインの方が早く確実に伝わることを学びます。
  • PECS®を使う:
    ブランコの絵カードを用意します。Aちゃんが体を揺すったら、「ブランコもっと?」と聞きながらカードを提示します。Aちゃんがカードに手を伸ばしたら、カードを支援者に渡すように促します。カードを受け取ったら「ブランコのカードくれたね!もっと揺らすね!」と言って、すぐに揺らします。

コミュニケーション支援で最も大切なのは、子どもの「伝えたい」という気持ちを尊重し、「伝わった!」という成功体験を積み重ねることです。

NPO法人世田谷スポ・レクネット

児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ

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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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