「伝わった!」が育むコミュニケーションの力
コミュニケーションは「おしゃべり」だけではありません。子どもの「伝えたい!」気持ちに寄り添い、その子に合った表現方法を見つけるための支援ガイドです。
はじめに:コミュニケーションの「本質」とは?
「コミュニケーション」と聞くと、私たちはつい「言葉を流暢に話すこと」をイメージしがちです。しかし、その本質は「自分の意思を相手に伝え、相手の意思を理解すること」にあります。その手段は、言葉だけではありません。指差し、表情、身振り、絵カード、そして行動そのものも、すべてが大切なコミュニケーションの手段です。
ABAでは、このようなコミュニケーション行動全般を「言語行動(Verbal Behavior)」と呼びます。これは「話すこと」だけを指すのではなく、他者を介して自分の望む結果を得るための、あらゆる行動を含みます。
私たちの役割は、子どもにただ単語を暗記させることではありません。子どもが「伝えたい!」と思った時に、その子に合った方法で、その意思を表現する手助けをすることです。
言葉の「使い道」を知る:4つの言語行動
同じ「りんご」という言葉でも、その「使い道(機能)」は様々です。ABAでは、言語行動を主に以下の機能に分類して考えます。この視点を持つことで、子どものコミュニケーションをより深く理解できます。支援の出発点は、子どもの「やる気」に直結するマンド(要求)です。
① マンド (要求)
棚のりんごを指差し「りんご!(欲しい)」と伝える。言葉が便利な道具だと知るための最重要の機能です。
② タクト (報告)
絵本のりんごを指差し「りんご(だ)!」と報告する。語彙を広げ、世界を共有します。
③ エコーイック (模倣)
大人の「りんご」に続いて「りんご」と真似して言う。新しい言葉を教える入口です。
④ イントラバーバル (会話)
「好きな果物は?」→「りんご」と質問に答える。会話の幅を広げます。
言葉だけに頼らない支援:AACという命綱
「AAC(Augmentative and Alternative Communication:拡大代替コミュニケーション)」とは、話すこと以外の、コミュニケーションを補ったり、代わりになったりする、あらゆる方法のことです。
なぜ必要か?
言葉が出ないことで「伝えられない」という経験が続くと、子どもは意欲を失い、かんしゃくなどの問題行動に繋がることがあります。AACは、子どもに「伝わった!」という成功体験を保障し、コミュニケーション意欲を維持・向上させるために不可欠です。
代表例①:PECS® (絵カード交換式)
絵カードを相手に「渡す」ことで要求を伝える、自発性を重視した指導法です。自発性を最優先し、必ず「相手」にカードを渡す必要があるため、自然と他者を意識したコミュニケーションが成立します。研究により、PECSの使用が発語を促すことも示されています。
欲しいものを選ぶ
カードを相手に渡す
欲しいものがもらえる
代表例②:サインやジェスチャー
特別な道具が不要で、いつでもどこでも使える身体表現です。「ちょうだい」「おしまい」「もっと」など、日常生活で頻繁に使う言葉から導入するのが効果的です。
ちょうだい
もっと
おしまい
NBDIで「伝えたい!」気持ちを引き出す
自然な遊びや生活の中で、意図的にコミュニケーションの機会を作り出し、子どもの自発的な表現を育てていきます。
環境設定で仕掛ける
好きなおやつを透明な容器に入れ、蓋を固く閉めておく。「あけて」という要求の機会を創出します。
タイムディレイで待つ
子どもが何かを欲しそうにこちらを見たら、すぐに与えずに数秒待つ。自発的な声を促します。
表現を豊かにする
子どもが「ぶーぶー」と言ったら、「そうだね、『あかいブーブー』だね」と少し豊かなモデルを示します。
【グループワーク】実践に繋げる思考実験
【お題】
Aちゃん(3歳)。発語はまだない。ブランコが大好き。もっと揺らしてほしい時に、体を揺すって支援者の顔をじっと見つめてきます。
考えてみよう
- このAちゃんの行動は、どんな「メッセージ」だと考えられますか?
- このメッセージを、より分かりやすいコミュニケーション行動に育てるために、あなたならどんな支援を計画しますか?(PECS、サインなど、自由に考えてください)
解説・支援のヒント
1. Aちゃんのメッセージ(行動の機能)
体を揺すって顔を見る行動は、「もっとブランコを揺らしてほしい」という明確な【マンド(要求)】です。言葉の代わりに、彼女が今できる最大限の方法で「お願い」を伝えています。
2. 具体的な支援計画の例
- サインを教える:
Aちゃんが体を揺すったら、支援者はブランコを止め、「もっと?」と聞きながら【もっと】のサインをやってみせます(モデリング)。Aちゃんの手をそっと取って一緒にサインをやってあげ(プロンプト)、できたらすぐに「そうだね、もっとだね!」と言ってブランコを揺らします。これを繰り返すことで、体を揺するよりサインの方が早く確実に伝わることを学びます。 - PECS®を使う:
ブランコの絵カードを用意します。Aちゃんが体を揺すったら、「ブランコもっと?」と聞きながらカードを提示します。Aちゃんがカードに手を伸ばしたら、カードを支援者に渡すように促します。カードを受け取ったら「ブランコのカードくれたね!もっと揺らすね!」と言って、すぐに揺らします。
児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ
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支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

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