ソーシャルスキルという「教科」を教える
SST(ソーシャルスキルトレーニング)は、子どもたちが社会で豊かに生きていくためのスキルを学ぶ、科学的に検証された効果的な「授業」です。
はじめに:ソーシャルスキルとは何か? なぜ教える必要があるのか?
「ソーシャルスキル」とは、私たちが社会(集団)の中で、他者と円滑で良好な関係を築きながら、自分らしく生きていくために必要な、具体的で学習可能な行動(スキル)の総称です。(例:挨拶、会話、順番待ち、協力、感情コントロール、問題解決など)
定型発達の子どもたちの多くは、これらのスキルを日常生活の中で自然に、無意識的に学習していきます。しかし、発達に特性のある子どもたちにとって、ソーシャルスキルは「暗黙のルール」の塊であり、自然に身につけることが非常に困難な場合があります。
彼らにとって、ソーシャルスキルは、国語や算数と同じように、一つひとつ分解し、具体的に、そして繰り返し練習する必要がある「教科」なのです。そのための効果的な教育手法が、ABAの原理に基づいたSST(ソーシャルスキルトレーニング)です。
SSTの基本構造:成功体験をデザインする5ステップ
SSTは、単なる「お話し合い」ではありません。スキルを具体的行動として習得させるための、科学的に検証された一連の手続き(型)に沿って進められます。
教示(ルールの説明)
今日のゴールと、それを学ぶメリットを具体的に伝える。
モデリング(見本を見せる)
支援者同士で、上手な例(〇)と下手な例(×)の劇を見せる。
リハーサル(やってみる)
安全な環境で、実際にスキルを練習する。SSTの心臓部。
フィードバック(振り返る)
良かった点を具体的に褒めて強化し、改善点を伝える。
般化(実生活に繋げる)
練習したスキルを、SSTの時間以外でも使えるように促す。
SSTを支えるABAの原理
SSTの各ステップは、私たちがこれまで学んできたABAの原理で動いています。
課題分析
複雑なスキルを、教えやすい小さなステップに分解する。「遊びに入れてもらう」→①見る ②近づく ③待つ ④声をかける。
プロンプトとフェイディング
リハーサルでうまくできない子にヒントを出し(プロンプト)、練習を重ねるごとにヒントを減らしていく(フェイディング)。
強化
フィードバックでの具体的な褒め言葉や、グループ全体で称え合う仕組み(グループ強化)で、望ましい行動を増やす。
効果的なSSTを運営するための実践ポイント
🎯 目標スキルは一つに絞る
一回のSSTで教えるスキルは欲張らずに一つだけ。「聞くスキル」なら「聞く」だけを徹底的に練習する。
🎲 子どもが楽しめる工夫を
好きなキャラクターを登場させたり、ゲーム形式を取り入れたりして、「楽しい活動」にすることが成功の鍵。
😊 ポジティブな雰囲気作り
失敗を恐れずに挑戦できる「安全な練習の場」を作る。どんな小さな成功も見逃さず、たくさん褒める。
🔗 般化への働きかけを忘れない【SSTの最終ゴール】
SSTの部屋だけでスキルが完璧にできても、実生活で使えなければ意味がありません。「般化」とは、練習したスキルを、異なる場所、異なる人、異なる状況でも自発的に使えるようにすることです。これはSSTにおける最も重要な最終目標です。
具体的な働きかけの例:
- 宿題(ホームワーク)を出す:SSTの最後に「今日の練習、おうちの人にも見せてあげよう」や「自由遊びの時に一回使ってみよう」といった、簡単で具体的なミッションを伝えます。成功体験が自信に繋がります。
- 自然な場面で機会を作る(トラップを仕掛ける):自由遊びの時間などに、支援者が意図的にスキルを使える場面を設定します。例えば、「貸して」の練習をした後なら、その子が好きなオモチャを他の子にそっと渡しておき、「貸して」と言う機会を作ります。
- チームで共有し、見逃さず強化する:SSTで練習しているスキルを、事業所内の全スタッフや保護者と共有します。これにより、誰が対応しても、子どもがスキルを使った時にすかさず褒める(強化する)ことができ、般化が促進されます。
- 多様な状況で練習する:SSTのリハーサル段階で、毎回同じ相手・同じ状況ではなく、練習相手や場所を少しずつ変えてみます。これにより、スキルが特定の状況とだけ結びつくことを防ぎます。
【グループワーク】SSTを計画してみよう
【お題】
小学生グループのSST。カードゲームで負けた時にかんしゃくを起こしてしまう子がいる。
テーマスキル:「負けた時に、気持ちを切り替える」
考えてみよう
このスキルを教えるために、SSTの「教示」「モデリング」「リハーサル」「フィードバック」の各ステップで、具体的に何をしますか?
計画のヒント
教示:「ゲームは勝ち負けがあるけど、負けても『ドンマイ!』って言えると、もっと楽しくなるし、友達もまた遊びたいって思うよ」とメリットを伝える。
モデリング:支援者同士で、負けて怒る「残念な例」と、「あー、負けちゃった!次頑張るぞ!」と笑顔で言う「素敵な例」の劇を見せる。
リハーサル:実際に簡単なゲームをし、わざと子どもが負ける場面を作り、「素敵な例」で学んだセリフを言う練習をしてもらう。
フィードバック:「悔しいのに、顔を上げて『次頑張る』って言えて、すごくかっこよかったよ!」と具体的に褒める。
児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ
職員研修にご使用いただけるように、研修用テキスト資料と講師原稿を配布しております。
こちらからダウンロードしてください。
支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

コメント