【基礎編】第13回 環境は「物言わぬ支援者」である:療育環境デザインガイド

環境は「物言わぬ支援者」である

問題行動が起きにくい、望ましい行動が自然と引き出される環境を意図的にデザインする。それがプロアクティブ(先を見越した)支援の第一歩です。

目次

はじめに:プロアクティブ支援の重要性

私たちはこれまで、集団療育のプログラム立案やSSTといった、子どもたちへの直接的な働きかけ(支援者の言動)を中心に学んできました。しかし、子どもたちの行動に影響を与えるのは、支援者の言葉や行動だけではありません。

部屋のレイアウト、掲示物、音、光といった「環境」そのものが、子どもたちの行動を誘発したり、抑制したりする強力な力を持っています。つまり、環境は「物言わぬ、しかし常に働きかけ続ける支援者」なのです。

ABAのABC分析で言えば、環境設定は最も重要な「A(先行事象)」のコントロールです。問題行動が起きてから対応する(リアクティブな支援)のではなく、そもそも問題行動が起きにくい、そして望ましい行動が自然と引き出される環境を意図的にデザインすること(プロアクティブな支援)。これが、環境設定の目的であり、プロの支援者の腕の見せ所です。

環境設定の3つの柱

① 物理的な環境

空間の区切り方や座席の配置で、子どもの行動と集中力をデザインする。

② 視覚的な支援

見てわかる情報で、先の見通しという「安心」と、行動の基準となる「ルール」を伝える。

③ 感覚的な環境

一人ひとりの感覚特性に配慮し、「心地よい」と感じられる学びの場を作る。

① 物理的な環境設定:行動をデザインする空間づくり

ゾーニング:空間に意味を持たせる

部屋の空間を、活動の目的に応じて明確に区切ること。これにより、子どもたちは「この場所では、何をするべきか」を直感的に理解しやすくなります。

活動エリア
(集中する場所)
運動エリア
(体を動かす場所)
食事エリア
(食べる場所)
クールダウンエリア
(落ち着く場所)

座席の配置:人間関係と集中力をコントロールする

座席の配置は、子どもの集中力や子ども同士の相互作用に決定的な影響を与えます。毎回、活動のねらいに合わせて戦略的に配置を考えます。

  • 個別の課題:集中できるよう、壁に向かって座ったり、パーテーションで区切ったりする。
  • SSTや協同作業:お互いの顔が見えるように、コの字型やグループ席にする。
  • 支援の配慮:手厚い支援が必要な子の隣には、必ず支援者が座る。視覚的な情報に弱い子は、ホワイトボードやモニターが最も見やすい中央に座る。特定の子とトラブルになりやすい場合は、物理的に距離を離して座る。

刺激のコントロール:注意の逸脱を防ぐ

子どもの注意は、時に非常に脆いものです。集中すべき時に、不要な刺激が目や耳に入らないように配慮します。

  • 課題に取り組む机の上には、その課題に必要な物以外は何も置かない。
  • 窓の外の人通りなどが気になる子の席は、窓から離すか、カーテンを閉める。
  • 使わないおもちゃは、蓋つきの箱やカーテン付きの棚にしまい、視界に入らないようにする。

② 視覚的な支援:見てわかる「安心」と「ルール」

多くの発達特性のある子どもにとって、耳から入る言葉の情報は、流れて消えてしまい、記憶に残りにくいものです。視覚情報は、その場に残り続け、子どもが自分のペースで確認できるため、非常に有効な支援となります。

スケジュールと手順書

活動の見通しを伝え、不安を軽減します。次に何をすべきかを自分で確認する力を育てます。

一日のながれ

その日の大きな流れ(朝の会→公園→おやつ等)を写真や絵で示す。終わったものには「おわり」のカードを貼るなど、進捗が分かるようにする。

活動の手順書

一つの活動(例:手洗い、工作)のステップを、写真やイラストで細かく分解して示す。

ルールの掲示

集団生活での約束事を、いつでも確認できるようにする。支援者が口頭で注意する回数を減らし、子どもの自己管理を促します。

  • ルールは具体的で、肯定的な表現(~しよう)で示す。(例:「走らない」ではなく、「歩こう」)
  • イラストや写真と共に掲示する。
  • 子どもたちの目線の高さに貼る。

③ 感覚的な環境設定:心地よい学びの場を作る

子どもたちの感覚(視覚、聴覚、触覚など)の過敏さや鈍感さに配慮することも、安心できる環境作りの上で欠かせません。

聴覚過敏への配慮

突発的な大きな音(イスを引く音、ドアの開閉音など)は、子どもに強い苦痛を与えることがあります。イスの脚にテニスボールをつける、ドアにクッション材を貼る、イヤーマフを使える選択肢を用意するなどの対策があります。

視覚過敏への配慮

蛍光灯のちらつきや、壁一面のカラフルな掲示物が、刺激過多になることがあります。照明を間接照明にする、掲示物は必要最低限にする、情報コーナーを一つにまとめるなどの対策があります。

感覚欲求への配慮

体を揺らす、手をいじるといった行動は、それ自体が本人にとって覚醒を調整し、集中するために必要な場合があります。問題行動として消去するのではなく、バランスボールに座ることを許可したり、手持ちサイズの感覚おもちゃを使わせたりするなど、社会的に許容されやすい代替行動に置き換えます。

【ケーススタディ】環境設定を計画しよう

【活動内容】「ハサミと糊を使った工作活動」

【参加する子どもたちの特性】

  • Aくん:注意が散りやすく、周りのお友達の様子が気になってしまう。
  • Bさん:聴覚過敏があり、大きな物音に驚いてしまう。
  • Cちゃん:順番を待つのが苦手で、他の子の道具を欲しがることがある。

環境設定のアイデア

Aくん(注意散漫)へ:
・座席は壁側やパーテーションで区切られた場所にし、視界に入る刺激を減らす。
・机の上には、今使うハサミと紙だけを置く。

Bさん(聴覚過敏)へ:
・活動の前に「ハサミを使うから、チョキチョキって音がするよ」と言葉で予告しておく。
・イヤーマフをいつでも使えるように、本人の近くに置いておく。

Cちゃん(順番が苦手)へ:
・ハサミや糊は共有にせず、一人ひとり個別のセットを用意する。
・「①切る→②貼る→③お片付け」といった手順書を、彼女の机の前に貼っておく。

子どもが来る前の準備、部屋の掃除やレイアウト変更、教材の整理整頓、そのすべてが、専門性に基づいた重要な支援の一部なのです。

NPO法人世田谷スポ・レクネット

児童発達支援・放課後等デイサービスの事業所の方へ

職員研修にご使用いただけるように、研修用テキスト資料と講師原稿を配布しております。

こちらからダウンロードしてください。

支援の質向上にお役に立てれば幸いです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次