【ABA理論・第10回】コミュニケーション支援の基礎: 「話す」より先に「伝わる」を支える

【ABA理論・第10回】コミュニケーション支援の基礎: 「話す」より先に「伝わる」を支える

前回は、NBDIの実践技術として、モデリング、タイムディレイ、インシデンタル・ティーチングを扱いました。子どもの興味を出発点にして、自然な流れの中で言葉や行動を引き出す方法です。

今回は、その中でも特に重要な「コミュニケーション支援」を整理します。

コミュニケーションと聞くと、多くの人は「言葉で話すこと」を思い浮かべます。しかし、支援の現場では、話すことだけを見ていると子どもの大切なメッセージを見落とします。指差し、視線、表情、身振り、絵カード、手を引く行動、泣く、怒る、離れる。これらも、子どもが何かを伝えようとしている行動かもしれません。

新人指導員にまず持ってほしい視点は、「この子は話せるか」よりも、「この子は何を伝えようとしているか」です。そこから支援が始まります。

目次

コミュニケーションの本質は「伝わること」

コミュニケーションの本質は、自分の意思を相手に伝え、相手の意思を理解することです。手段は言葉に限りません。

たとえば、子どもがブランコに乗っていて、揺れが止まった瞬間に支援者の顔を見るとします。発語はないかもしれません。しかし、その視線には「もっと揺らして」という意味があるかもしれません。

また、棚の上のおもちゃに手を伸ばして「あ」と声を出す子がいます。これも「取って」「使いたい」「見て」という要求や共有のサインかもしれません。支援者がそのサインを読み取り、分かりやすい伝え方に育てていくことが、コミュニケーション支援です。

ABAでは、このようなコミュニケーション行動を「言語行動」という視点で捉えます。言語行動とは、話し言葉だけではなく、他者に働きかけて何らかの結果を得る行動全般を指します。絵カードを渡す、指差す、サインを出す、発声する、文字を指すことも、機能によっては言語行動として考えられます。

この見方を持つと、子どもの行動の意味が見えやすくなります。「泣いているから困った行動」と見るだけでなく、「何かを避けたいのか」「欲しい物があるのか」「助けを求めているのか」と考えられるようになります。

言葉には「使い道」がある

同じ「りんご」という言葉でも、使い道は同じではありません。

子どもが棚の上のりんごを見て「りんご」と言う場合、それは「りんごが欲しい」という要求かもしれません。絵本の中のりんごを見て「りんご」と言う場合は、「これはりんごだ」と報告しているかもしれません。大人が「りんご」と言った後に子どもが「りんご」と真似る場合は、模倣です。

ABAでは、言語行動を機能で分けて考えます。新人指導員が最初に押さえるとよいのは、次の4つです。

言語行動の4つの機能
機能 意味 子どもの行動例 支援のポイント
マンド 要求する 欲しいおもちゃを指差して「とって」と言う 最初に大切にしたい。子どもの動機づけが強い
タクト 見たものを報告する 絵本の犬を見て「わんわん」と言う 語彙を広げ、世界を共有する
エコーイック 聞いた言葉を真似る 大人の「りんご」に続いて「りんご」と言う 新しい言葉の入り口になる
イントラバーバル 言葉でやりとりする 「好きな食べ物は?」に「りんご」と答える 会話や社会性につながる

特に大切なのは、マンドです。マンドとは、要求するコミュニケーションです。「ちょうだい」「開けて」「手伝って」「もう1回」「やめて」などが含まれます。

なぜマンドが大切なのでしょうか。理由は、子ども本人の動機づけが強いからです。欲しい物がある、困っている、続けたい、終わりたい。このような場面では、子どもにとって伝える必要性があります。伝えた結果、欲しい物が手に入る、助けてもらえる、活動が続く。だから「伝えると役に立つ」という経験が生まれます。

一方で、支援者はタクトばかりを求めてしまうことがあります。絵カードを見せて「これは何?」と聞く練習ばかりになり、子どもが本当に伝えたい場面での支援が少なくなるケースです。もちろんタクトも大切です。しかし、最初に育てたいのは「言えば、伝わる」「伝えると世界が変わる」という実感です。

発語がない子にも、伝える手段は必要

発語がまだない子どもに対して、「話せるようになるまで待つ」という支援は不十分です。話す前にも、子どもには伝えたいことがあります。そこで重要になるのがAACです。

AACとは、Augmentative and Alternative Communicationの略で、日本語では拡大代替コミュニケーションと呼ばれます。話すことを補ったり、話すことの代わりになったりするコミュニケーション手段の総称です。

AACには、道具を使わないものもあります。視線、指差し、身振り、簡単なサインなどです。絵カードやコミュニケーションボードのようなローテクの方法もあります。タブレットや音声出力装置などのハイテクな方法もあります。

AACの選択肢と使い分け

AACを使う時によく出る心配が、「絵カードやサインを使うと、話さなくなるのではないか」というものです。しかし、これは誤解です。伝える手段を持つことで、子どもは「伝わった」という成功体験を積めます。その経験が、コミュニケーションへの意欲を支えます。

発語を無理に待つことで、子どもが伝えられない経験を重ねると、泣く、怒る、物を投げる、大人の手を引っ張るなどの行動が強まりやすくなります。これは子どもが困らせようとしているのではなく、今使える手段で伝えようとしている場合があります。

だからこそ、発語を目指す場合でも、同時にその子が今使える伝え方を用意することが大切です。AACは発語をあきらめるためのものではありません。伝える成功体験を保障し、発語や社会的なやりとりへの橋渡しになるものです。

PECSやサインは「相手に伝える」を教えやすい

AACの代表例として、PECSがあります。PECSは、Picture Exchange Communication Systemの略で、絵カードを使って要求を伝える方法です。子どもが欲しい物のカードを相手に渡し、その物と交換するところから始まります。

PECSの強みは、コミュニケーションが「相手に働きかける行動」だと分かりやすいことです。ただカードを見て名前を言うのではなく、カードを相手に渡す。その結果、欲しい物が手に入る。ここに、コミュニケーションの基本が入っています。

サインやジェスチャーも使いやすい方法です。「もっと」「おしまい」「ちょうだい」「手伝って」など、日常生活でよく使うものから始めると効果的です。道具がなくても使えるため、遊び、おやつ、着替え、片付けなど、さまざまな場面に広げやすい利点があります。

ただし、AACは導入しただけでは定着しません。支援者が日常の中で使う機会を作り、成功したらすぐに意味のある結果を返す必要があります。

たとえば、「もっと」のサインを教えたいなら、ブランコを揺らして楽しいところで一度止めます。子どもが支援者を見る、体を動かす、手を伸ばすなどの反応を見せたら、支援者が「もっと」のサインをモデルとして見せます。子どもが少しでも真似できたら、「もっとだね」と言って、すぐに揺らします。

ここでも大切なのは、自然な結果です。「もっと」と伝えたら、もっと揺れる。このつながりがあるから、子どもにとって分かりやすい学びになります。

クレーン現象を「困った行動」で終わらせない

現場でよく見られる行動に、クレーン現象があります。クレーン現象とは、子どもが大人の手を引っ張って、欲しい物を取らせたり、行きたい場所へ連れて行かせたりする行動です。

クレーン現象を見ると、「手を引っ張るのをやめさせたい」と考えがちです。しかし、ABAの視点では、まず機能を考えます。その行動は何のために起きているのか。多くの場合、「欲しい物を手に入れたい」「助けてほしい」「そこへ行きたい」という要求の機能を持っています。

つまり、クレーン現象を減らすには、ただ止めるのではなく、同じ目的を達成できる別の伝え方を教える必要があります。

たとえば、子どもが支援者の手を引っ張っておやつ棚へ向かう場合、すぐにおやつを渡すと、「手を引っ張ると伝わる」という学習が続きます。そこで、支援者はおやつの絵カードを用意し、子どもがカードを渡す、指差す、サインを出すなどの行動に置き換えていきます。できたらすぐにおやつを渡します。

この時、急に要求を高くしすぎないことが大切です。最初からはっきり発語することを求めると、子どもは失敗しやすくなります。まずはカードに手を触れる、カードを見る、支援者の手を借りて渡すなど、その子が成功できる形から始めます。

NBDIと組み合わせると、コミュニケーションは育ちやすい

前回扱ったNBDIは、コミュニケーション支援と相性がよい方法です。なぜなら、子どもの「伝えたい」が自然に生まれる場面を使えるからです。

好きなおやつを透明な容器に入れて、少し開けにくいふたにする。これは「開けて」を引き出す環境設定になります。ブランコを楽しいところで止める。これは「もっと」を引き出す機会になります。子どもが好きな車を1台だけ支援者が持っておく。これは「かして」「ちょうだい」を促す場面になります。

ただし、環境設定は子どもを困らせるためのものではありません。少しだけ伝える必要が生まれるようにする工夫です。子どもが混乱しすぎる前に、モデリングやタイムディレイ、絵カードなどで成功につなげます。

コミュニケーション支援で一番避けたいのは、「言えるまで渡さない」という硬い対応です。これは支援ではなく、子どもにとってつらい経験になりやすいものです。目的は、子どもに負荷をかけることではなく、伝える行動を成功させることです。

現場で使える支援の組み立て

新人指導員が明日から使いやすいように、コミュニケーション支援の流れを整理します。

まず、子どものメッセージを読むところから始めます。何を見ているか、どこへ行こうとしているか、何を避けようとしているか、誰に近づいているかを観察します。

次に、そのメッセージをより分かりやすい行動に置き換えます。発語がある子なら短い言葉。発語が難しい子なら絵カード、サイン、指差し、視線など。その子が今できる方法を選びます。

そして、成功したらすぐに自然な結果を返します。「開けて」と伝えたら開ける。「もっと」と伝えたら続ける。「おしまい」と伝えたら終わりの見通しを作る。伝えた内容と結果が一致していることが重要です。

最後に、少しずつ表現を広げます。「ぶーぶー」と言えた子には、「赤いぶーぶーだね」と返す。「ちょうだい」と言えた子には、「ボールちょうだい」とモデルを足す。子どもの今の表現に、少しだけ豊かな言葉を乗せて返します。

この「少しだけ」が大切です。急に長い文を求めると、子どもは使いにくくなります。今の力より半歩先の表現をモデルとして見せると、子どもは取り入れやすくなります。

個人ワーク: その行動は何を伝えているか

次の場面を一人で考えてみてください。

Aちゃんは発語がまだありません。ブランコが大好きです。ブランコが止まると、体を揺らしながら支援者の顔をじっと見ます。

この行動について、次の3点を考えてみましょう。

  1. Aちゃんは何を伝えようとしていると考えられるか
  2. そのメッセージを、どんなコミュニケーション手段に育てられるか
  3. 成功した時、どんな自然な結果を返すか

一例としては、Aちゃんのメッセージは「もっと揺らしてほしい」というマンドだと考えられます。支援方法としては、「もっと」のサインをモデリングする、ブランコの絵カードを渡す練習をする、「も」「あ」などの発声を拾う、といった方法があります。成功したら、すぐにブランコを揺らします。

ここで重要なのは、正解が一つではないことです。子どもの運動発達、模倣の力、視覚理解、手の使い方、発声の状態によって、選ぶ手段は変わります。支援者の専門性は、その子に合った「伝わる方法」を見つけるところにあります。

「伝わった」は、子どもの世界を広げる

コミュニケーション支援は、単語を増やすだけの支援ではありません。子どもが自分の意思で人に働きかけ、相手が応えてくれる経験を増やす支援です。

「伝えたら、分かってもらえた」

この経験は、子どもの安心感を育てます。人と関わる意欲を育てます。困った時に、泣く、怒る、引っ張る以外の方法を使う土台にもなります。

もちろん、すべての子が同じペースで話せるようになるわけではありません。だからこそ、支援者は言葉だけにこだわらず、その子に合った伝え方を用意する必要があります。

話すことは大切です。しかし、その前に「伝わること」が大切です。伝わる経験が積み重なると、子どもは人に向かって働きかける力を育てていきます。

次回からは、これまで学んできた個別支援の技術を、集団療育の中でどう活かすかを考えます。集団の場では、一人ひとりの目標と、集団全体の流れを同時に見る力が求められます。その第一歩として、プログラム立案を整理します。

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