【ABA理論・第12回】集団療育への応用: SSTでソーシャルスキルを「練習できる形」にする
前回は、集団療育のプログラム立案について整理しました。集団療育では、集団全体のねらいと、一人ひとりの個別のねらいを同時に見ることが大切でした。
今回は、その集団療育の中でも特に重要なSSTを扱います。SSTとは、ソーシャルスキルトレーニングのことです。挨拶、順番待ち、貸し借り、会話、気持ちの切り替え、友達への声かけなど、集団の中で必要になる社会的なスキルを、具体的に練習する支援です。
ソーシャルスキルは、「空気を読めば分かる」「見ていれば自然に身につく」と思われがちです。しかし、発達に特性のある子どもにとって、社会的な場面はとても複雑です。相手の表情、声の大きさ、距離感、順番、暗黙のルール、遊びの流れ。多くの情報を同時に処理しなければなりません。
だからこそ、ソーシャルスキルは「できないから注意する」のではなく、「分解して、見せて、練習して、使えるようにする」必要があります。ここにABAの考え方が活きます。
ソーシャルスキルは「教えられる行動」である
ソーシャルスキルとは、人と関わりながら生活するために必要な具体的な行動です。
たとえば、「友達と仲良くする」という言葉は大きすぎます。支援の目標としては曖昧です。実際には、「友達の近くに行く」「相手が使っている物を見る」「遊びの切れ目を待つ」「いれてと言う」「相手の返事を待つ」「断られた時に支援者へ相談する」など、たくさんの小さな行動に分けられます。
このように、複雑な行動を小さな手順に分けることを課題分析といいます。課題分析は、SSTを組み立てるうえでとても重要です。
新人指導員が注意したいのは、「ちゃんと友達に言って」「順番を守って」「負けても怒らないで」といった大きな言葉だけで終わらせないことです。子どもにとっては、何をどうすればよいのかが分からない場合があります。
「順番を守る」を教えるなら、「自分の番のカードを見る」「友達がしている間は椅子に座る」「終わったら次の人にどうぞと言う」など、行動として見える形にします。SSTは、この見える形にしたスキルを、安全な場で練習する時間です。
SSTは「話し合い」ではなく「練習」である
SSTというと、子どもたちに「こんな時どうする?」と聞いて話し合う活動をイメージするかもしれません。もちろん、考えることも大切です。ただし、SSTの中心は話し合いではありません。実際にやってみることです。
水泳を覚える時、泳ぎ方の説明を聞くだけでは泳げるようになりません。自転車も、乗り方を聞くだけでは乗れません。ソーシャルスキルも同じです。「貸してと言えばいい」と頭で分かっていても、実際の遊びの中で友達に声をかけるのは別の難しさがあります。
SSTでは、「分かる」を「できる」に変えるために、決まった流れを使います。

基本は、教示、モデリング、リハーサル、フィードバック、般化の5つです。
教示では、今日練習するスキルを分かりやすく伝えます。「今日は、遊びに入りたい時の『いれて』を練習します」「この言い方ができると、友達と遊びやすくなります」のように、何を練習するのか、なぜ役立つのかを短く示します。
モデリングでは、支援者が見本を見せます。良い例だけでなく、悪い例を見せることが役立つ場合もあります。たとえば、友達のおもちゃを無言で取る例と、「いれて」と言って待つ例を見せると、違いが分かりやすくなります。
リハーサルでは、子どもが実際にやってみます。これがSSTの中心です。支援者や友達を相手に、言葉、表情、距離、待つことなどを練習します。
フィードバックでは、できたことを具体的に伝えます。「声が優しかったね」「友達の顔を見て言えたね」「待てたね」のように、何がよかったかを明確にします。改善点を伝える場合も、一度にたくさん言いすぎず、次に試すことを一つだけにします。
般化では、練習したスキルを実生活で使う橋渡しをします。SSTの時間だけできても、自由遊びや園、家庭で使えなければ生活の中では十分に役立ちません。「このあと自由遊びで先生と一緒に使ってみよう」と、実際の場面につなげます。
ABAの原理はSSTの中に入っている
SSTは、ABAと別物ではありません。SSTの中には、これまで学んできたABAの考え方がたくさん入っています。

まず、課題分析です。複雑なソーシャルスキルを、小さな行動に分けます。「遊びに入れてもらう」を例にすると、友達の遊びを見る、近づく、タイミングを待つ、「いれて」と言う、返事を待つ、入れなかった時に別の選択肢を取る、という流れにできます。
次に、プロンプトです。リハーサル中に子どもが言葉に詰まった時、支援者が小声でセリフを教える、カードを指差す、身振りで合図するなどの手助けをします。プロンプトとは、子どもが成功しやすいように出す手助けです。
そして、フェイディングです。フェイディングとは、手助けを少しずつ減らしていくことです。最初は支援者が「いれてって言ってみよう」と言葉で助けるかもしれません。次はカードを見せるだけにする。さらに次は、支援者が近くで見守るだけにする。こうして、自分で使える状態に近づけます。
最後に、強化です。SSTでは、できた行動を具体的に褒めることが大切です。「よかったよ」だけではなく、「負けて悔しかったのに、深呼吸してもう一回できたね」のように、何がよかったかを伝えます。これは社会的強化です。社会的強化とは、褒め言葉、承認、笑顔、拍手など、人との関わりを通して行動が起きやすくなることです。
目標スキルは一つに絞る
効果的なSSTにするためには、一回の活動で教えるスキルを欲張らないことが大切です。
たとえば、「友達と仲良く遊ぶ」をテーマにすると、範囲が広すぎます。子どもにとっても、支援者にとっても、何を練習しているのかがぼやけます。
「かしてと言う」「順番を待つ」「負けた時に深呼吸する」「相手の話を最後まで聞く」など、一つのスキルに絞ると、練習が具体的になります。
さらに、そのスキルを見える行動にします。「優しく言う」だけでは曖昧です。「相手の近くに行く」「普通の声の大きさで言う」「手を出さずに待つ」のように、観察できる行動にします。
支援者同士で目標スキルの定義を共有しておくことも重要です。A支援者は「貸してと言えたらOK」と考え、B支援者は「相手の返事を待てないと不十分」と考えていると、子どもへのフィードバックがぶれます。SSTの前に、どこまでできたら成功とするかを決めておくと、支援が安定します。
悪い例のモデリングは使い方に注意する
SSTでは、良い例と悪い例を見せることがあります。悪い例は、違いを分かりやすくするために役立ちます。
たとえば、「負けた時の気持ちの切り替え」を練習する場合、支援者がカードゲームで負けて「もうやらない!」と怒る悪い例を見せる。その後、深呼吸して「くやしいけど、もう一回やる」と言う良い例を見せる。子どもは、どちらが周りと続けやすい行動かを比べやすくなります。
ただし、悪い例を面白くしすぎると、子どもがそちらを真似したくなることがあります。支援者が大げさに怒ったり、笑いを取りすぎたりすると、悪い例が強化されることもあります。
悪い例は短く、分かりやすく、必要最小限にします。そして、必ず良い例を見せて終わります。「何がよくなかったか」よりも、「どうすればよいか」が子どもに残るようにすることが大切です。
フィードバックは「できた行動」を具体的に返す
SSTのフィードバックでは、子どもができたことを具体的に伝えます。
「上手だったね」も悪くありませんが、それだけでは何がよかったのかが分かりにくいことがあります。「友達の顔を見て『いれて』と言えたね」「負けた後に、手を出さずに待てたね」「小さい声で『かして』と言えたね」のように、行動を言葉にします。
改善点を伝える時は、先にできたことを認めます。そのうえで、「次は、もう少し友達の近くで言ってみよう」「今度は言った後に返事を待ってみよう」と、一つだけ次の目標を出します。
失敗を責める雰囲気になると、子どもは挑戦しにくくなります。SSTは、本番前の練習場です。間違えてもやり直せる、支援者が助けてくれる、できたことを見つけてもらえる。この安心感があるから、子どもは難しいソーシャルスキルに挑戦できます。
般化を最初から計画する
SSTでよくある課題は、「練習の場ではできるが、実生活では使えない」ということです。
これは子どもが怠けているわけではありません。SSTの部屋と自由遊びでは、刺激も相手も気持ちの高ぶりも違います。練習では支援者が準備した場面ですが、実生活では予測できないことが起こります。
だからこそ、般化を最初から計画します。般化とは、ある場面でできた行動を、別の人、場所、活動でも使えるようにすることです。
たとえば、SSTで「かして」を練習したら、その日の自由遊びで支援者が近くにいて、実際に「かして」を使う場面を一つ作ります。家庭でも同じ言葉を使ってもらえるよう、保護者に短く共有します。園で困っている場面があるなら、園の先生にも「今は『かして』を練習しています」と伝えます。
SSTは、部屋の中で完結させないことが大切です。練習したスキルを、生活の中で使えるように橋渡しして初めて、支援として意味を持ちます。
個人ワーク: 「負けた時の切り替え」をSSTにする
次のケースを一人で考えてみてください。
小学生グループでカードゲームをしています。負けると怒ってカードを投げたり、「もうやらない」と言って活動から離れたりする子がいます。この子に、「負けた時に気持ちを切り替える」スキルを教えたいとします。
次の4点を書き出してみましょう。
- 教示: このスキルがなぜ大切か、子どもにどう説明するか
- モデリング: 支援者が見せる良い例と悪い例は何か
- リハーサル: 子どもがどんな場面で練習するか
- フィードバック: できた時にどんな言葉で褒めるか
一例として、教示では「負けてももう一回できると、友達と楽しく遊び続けられる」と伝えます。モデリングでは、負けてカードを投げる例と、深呼吸して「くやしいけど、もう一回」と言う例を見せます。リハーサルでは、支援者と簡単なゲームをして、わざと負ける場面を作ります。フィードバックでは、「くやしかったのに、カードを投げずに深呼吸できたね」と具体的に返します。
ここでの目標は、「悔しくならないこと」ではありません。悔しい気持ちは自然なものです。目標は、悔しい気持ちがあっても、周りと続けられる行動を選べるようになることです。
SSTは、子どもが社会で使うための練習場
SSTは、子どもを「正しく振る舞わせる」ためだけのものではありません。子どもが人と関わる時に困りにくくなり、自分の気持ちを伝え、相手と折り合いをつけ、集団の中で安心して過ごせるようにするための支援です。
そのためには、スキルを小さく分けること。見本を見せること。実際に練習すること。できた行動を強化すること。そして、生活の中で使えるように橋渡しすること。
SSTは、ABAの原理を集団療育の中で使う、とても実践的な方法です。次回は、こうしたSSTや集団活動を支える土台として、環境設定を整理します。部屋の配置、視覚支援、感覚への配慮など、子どもが成功しやすい条件をどう作るかを考えていきます。


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