【ABA理論・第7回】個別支援計画と支援記録の書き方: 目標を具体化し、チームで育てる

【ABA理論・第7回】個別支援計画と支援記録の書き方: 目標を具体化し、チームで育てる

ABAとは、応用行動分析のことです。子どもの行動を気合いや印象ではなく、環境との関係から捉えて支援を組み立てる考え方を指します。前回までの記事では、行動の機能や介入の組み立て方を整理してきました。

ただ、どれだけよい視点や方法を知っていても、支援者ごとに見立てや関わり方がばらばらでは、子どもにとって分かりやすい支援にはなりません。そこで必要になるのが、個別支援計画と支援記録です。

個別支援計画は、どこに向かうかを決める地図です。支援記録は、実際にどんな場面で何が起きたかを残す航海日誌です。この2つがそろうことで、支援は「何となくうまくいった」から「何をねらい、何が変わったかを説明できる」ものに変わります。

今回は、新人指導員でも実務で使いやすいように、個別支援計画の見方、目標の立て方、記録の書き方をひとつながりで整理します。

目次

個別支援計画は支援の設計図

個別支援計画は、子どもの現状、本人や保護者の願い、優先したい課題、具体的な支援方法をまとめた計画書です。単に提出するための書類ではなく、チーム全員が同じ方向を向くための共通言語でもあります。

ここで土台になるのがアセスメントです。アセスメントとは、子どもの得意なこと、苦手なこと、行動が起きやすい場面、周囲の関わり方などを整理して、支援の出発点を明らかにする作業です。ABAの文脈では、フリーオペラント観察や機能的アセスメントのように、行動がどんな場面で起き、どんな結果につながっているかを見る方法を使います。

たとえば「友だちとトラブルが多い」という言い方だけでは、支援の方法は決まりません。

  • 遊びに入りたいのに言葉が出ず、急に相手の作品に触ってしまうのか
  • 待つことが苦手で、順番が来る前に手が出るのか
  • 大人に止められるやりとり自体が注目になっているのか

この違いが見えて初めて、何を目標にし、何を練習するかが決まります。計画は思いつきで書くものではなく、観察と見立ての結果として作るものです。

PDCAで計画を育てる

個別支援計画は、一度書いたら終わりではありません。支援は、次の流れで回していきます。

個別支援計画と支援記録をつなぐPDCAの流れ
  • Plan: アセスメントをもとに目標と支援方法を決める
  • Do: 日々の療育や関わりの中で実行する
  • Check: 記録を見ながら、変化や課題を確かめる
  • Act: うまくいった点は続け、難しかった点は修正する

現場では、Planだけ丁寧で、DoとCheckが曖昧になることがあります。反対に、毎日一生懸命関わっていても、目標が曖昧で何を評価するか決まっていない場合もあります。どちらでも支援の質は安定しません。

大切なのは、計画と記録を切り離さないことです。記録は、計画が現場でどう実行されたかを確かめる材料です。記録が具体的であるほど、次の見直しも具体的になります。

良い目標は「気持ちのよい言葉」より「見える行動」

個別支援計画で最も差が出るのが目標設定です。現場では「落ち着いて過ごす」「コミュニケーションを伸ばす」「集団参加を増やす」といった言葉が出やすいのですが、このままでは支援者ごとに解釈が分かれます。

良い目標は、誰が読んでも同じ行動を思い浮かべられ、達成できたかを確かめられるものです。そこで役立つのが、次の5つの視点です。

視点 確認したいこと
具体性 どんな行動が増えればよいか、映像のように想像できるか
測定可能性 回数、時間、場面などで変化を確かめられるか
達成可能性 少し頑張れば届く段階になっているか
関連性 生活のしやすさや長期目標につながっているか
期限 いつ頃までに評価するかが決まっているか

たとえば「友だちと関われるようになる」は長期的な願いとしてはよくても、そのままでは日々の支援に落とし込みにくい表現です。短期目標にするなら、次のように具体化します。

  • 自由遊びで、遊びに入りたい時に「いれて」カードを1日1回使う
  • 朝の会で、自分の席に3分座って参加する
  • おやつの前に、職員の促しで手洗い場まで移動する

ここで言うプロンプトとは、子どもが成功できるように出す手がかりのことです。言葉で知らせる、指差しする、絵カードを見せるなどが含まれます。目標を立てる時は、「どこまで自立できれば達成とするのか」「どの程度のプロンプトは認めるのか」も意識すると評価しやすくなります。

目標を立てる時にありがちなNG

目標が曖昧になる原因は、支援者の願いをそのまま言葉にしてしまうことです。願いは大切ですが、そのままでは行動になりません。

NGな書き方 起きやすい問題 書き換え例
落ち着いて過ごせるようにする 何をもって落ち着いたとみなすか人によって違う 活動開始後3分間、自席で教材に触れて取り組む
偏食をなくす ゴールが大きすぎて本人の負担が高い 苦手な食材を小さじ1杯分、皿にのせたまま食卓に置ける
友だちと仲良く遊ぶ 観察しにくく、支援行動が決まらない ブロック遊びで、相手の作品に触る前に「みせて」と言える

目標は、きれいに聞こえるかより、次の支援が見えるかで判断した方が実務では役立ちます。

支援記録は「解釈を書く場所」ではなく「事実を残す場所」

支援記録の目的は、頑張りをアピールすることではありません。あとから読んだ別の支援者が、同じ場面をなるべく同じように理解できるようにすることです。

そのため記録では、主観より客観を優先します。客観とは、誰が見ても同じと認めやすい事実です。時間、場所、行動、前後のやりとり、支援者の対応、結果を残します。

たとえば次の2つを比べると違いが分かります。

書き方 記録例
主観が多い記録 Aくんがわざとおもちゃを取った。注意しても反省していない様子だった。
客観的な記録 15:10、自由遊び。AくんがBくんの持っていた車を手で取り、自分の前に置いた。Bくんは泣いて職員の方を見た。職員が「貸してって言うよ」と伝えると、AくんはBくんと職員を見た。
支援記録は解釈より事実を残す

客観的に書くと、その後の支援につながります。たとえば上の記録からは、「欲しい時の伝え方が未習得かもしれない」「大人の言葉かけの後に相手を見る反応はある」といった見立てができます。反対に、「わざと」「反省していない」と書いてしまうと、書いた人の印象だけが残り、次の支援者が事実を読み取りにくくなります。

記録で押さえたい5つの観点

短い記録でも、次の5つが入ると質が安定します。

  1. いつ: 時刻、活動名、場面
  2. 何が起きたか: 子どもの行動を具体的に
  3. 前に何があったか: 課題提示、順番待ち、玩具の取り合いなど
  4. どう関わったか: 促し、見守り、選択肢提示、環境調整
  5. どうなったか: 行動の変化、継続、落ち着き、次に必要な視点

ここで随伴性という言葉も覚えておくと便利です。随伴性とは、「何かが起きた時に、その後どんな結果が続いたか」というつながりのことです。行動の前後関係が記録に入っていると、どんな関わりが強化になったかを見直しやすくなります。

強化とは、その行動が将来起きやすくなるような結果が続くことです。強化子は、その行動を増やす力を持つ結果や刺激を指します。たとえば、ほめ言葉、好きな活動、休憩、トークンなどが強化子になりえます。トークンとは、シールやカードのように、集めることでごほうびや達成感につながる目印です。記録に「声かけ後にすぐ参加できた」「カード提示後に着席した」などの変化を書いておくと、何が強化子として働いているかを考えやすくなります。

計画と記録をつなぐ実務のコツ

個別支援計画と支援記録がかみ合わないと、「計画は立派だけれど現場で使われていない」状態になります。これを防ぐには、記録の視点をあらかじめ計画に埋め込むことが有効です。

たとえば、短期目標が「自由遊びで『いれて』カードを1日1回使う」なら、記録では次を見ます。

  • カードを使う機会が何回あったか
  • どの程度のプロンプトで使えたか
  • 使えた後に、遊び参加までつながったか
  • 使えなかった時は、何が難しかったか

このように、記録項目が目標に対応していると、会議での振り返りも具体的になります。「最近よくなっている気がする」ではなく、「先週は5回の機会中1回、今週は5回中3回使えた」と共有できるからです。

個人ワーク: 今の記録を1つ書き換えてみる

現場でいちばん効果が出やすい練習は、自分の書いた記録を客観表現に直してみることです。

次の手順で1件だけ試してください。

  1. 最近書いた記録から、感想や解釈が入っている1文を選ぶ
  2. 「その場面を動画で見た人なら、何が見えたと言うか」と考える
  3. 時刻、行動、支援者の対応、結果の4点を入れて書き直す

たとえば「集中力がなくて離席が多かった」は、次のように直せます。

10:20〜10:30の制作活動で、Aさんは3回席を離れた。1回目はのりを配った直後、2回目と3回目は課題の声かけ後に立ち上がった。職員が見本を指差して工程を1つずつ伝えると、各回とも30秒以内に着席した。

こう書けるようになると、離席を責めるのではなく、「工程が見えにくいのか」「一度に言葉が多いのか」「見本提示が有効なのか」と次の支援を考えやすくなります。

記録が整うと、チーム支援がぶれにくくなる

個別支援計画は、支援の方針をそろえる役割を持ちます。支援記録は、その方針が現場でどう機能したかを見えるようにします。どちらか一方では足りません。

とくに新人指導員の時期は、「何を書けばよいのか分からない」「計画を読んでも実践に結びつかない」と感じやすいものです。そんな時は、次の順番に戻ると整理しやすくなります。

  1. この子の今の目標は何か
  2. その目標に関係する行動は何か
  3. 今日の場面で、何が起きたか
  4. こちらはどう関わり、結果はどうだったか

この4点が言葉になれば、記録は支援の材料になります。そして材料が積み上がれば、計画はよりその子に合ったものへ更新できます。

計画と記録は、忙しい現場で後回しにされやすい仕事です。けれど実際には、支援の迷いを減らし、チームの足並みをそろえ、保護者への説明にもつながる土台です。まずは目標を具体的に書くこと、次に記録を事実で残すこと。この2つを意識するだけで、支援の質はかなり変わります。

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