【ABA理論・第9回】NBDIの実践: モデリング・待つ・偶発的に教える
前回は、NBDIの理論について整理しました。NBDIとは、子どもの「好き」「やりたい」「もっと続けたい」という自然な動機づけを出発点に、遊びや生活の流れの中で学びを引き出す考え方です。
ただ、理論を知っているだけでは、現場の支援は変わりません。自由遊びで子どもがミニカーを走らせている時、おやつの袋が開かない時、散歩中に花を見つけて立ち止まった時。その一瞬を、どのように学びの機会に変えるのか。ここに支援者の専門性があります。
今回は、NBDIを実践するための3つの基本技術を扱います。モデリング、タイムディレイ、インシデンタル・ティーチングです。どれも名前だけ見ると専門的ですが、現場ではとても身近な関わりです。大切なのは、「教え込む」のではなく、子どもが自分から動き出せるように設計することです。
NBDIの実践は「ただ遊ぶこと」ではない
NBDIでは、子どもの興味に沿って関わります。だからといって、支援者が何も考えずに遊び相手になるだけでは、療育としての意図が弱くなります。
たとえば、子どもがシャボン玉を見て笑っている場面を考えてみます。支援者が何度もシャボン玉を吹くだけなら、楽しい遊びではあります。しかし、NBDIの視点を持つと、同じ場面が「要求する」「共同注意する」「模倣する」「順番を待つ」「もう一度を伝える」など、複数の学びの機会に変わります。
共同注意とは、子どもと大人が同じ物や出来事に注意を向け、それを共有することです。子どもがシャボン玉を見て、大人の顔を見て、またシャボン玉を見る。このようなやりとりは、言葉の前段階としても大切です。
NBDIの実践では、支援者は次の3つを同時に見ています。
- 子どもは何に興味を持っているか
- その場面で自然に教えられる行動は何か
- 成功した時に、どんな自然な結果を返せるか
自然な結果とは、行動とつながりのある結果です。「もう1回」と伝えたら、実際にもう一度シャボン玉が出る。「開けて」と伝えたら、袋が開いておやつを食べられる。このように、子どもにとって分かりやすい結果が返ると、行動は次にも起きやすくなります。

技術1: モデリングは「正解を見せる」支援
モデリングとは、支援者が子どもに期待する行動を、お手本としてやって見せることです。言葉で長く説明するより、実際に見せた方が分かりやすい子どもはたくさんいます。
たとえば、ミニカーを床に置いている子がいるとします。支援者が隣で別のミニカーを走らせ、「ブッブー」と短く言いながら遊び方を見せる。子どもが少しでも車を動かしたら、「走ったね」「速いね」と反応し、一緒に遊びを続ける。これが遊び方のモデリングです。
言葉のモデリングもあります。子どもがジュースの入ったコップを黙って差し出してくる場面で、支援者がすぐに受け取るのではなく、「ジュース、ちょうだい」と短く言ってみせる。子どもが「じゅ」「ちょー」など少しでも近い音や身振りを出したら、「はい、ジュースね」と渡す。完璧な発語を待つのではなく、伝えようとした行動を拾うことが大切です。
モデリングで注意したいのは、見本を複雑にしすぎないことです。新人指導員ほど、丁寧に説明しようとして言葉が多くなりがちです。しかし、子どもが真似しやすいモデルは、短く、はっきりしていて、場面と結びついています。
「赤い車を、こうやって道路の上に置いて、まっすぐ前に走らせるんだよ」よりも、「ブッブー」と言いながら走らせる方が伝わることがあります。「お友達に貸してほしい時は、貸してと言いましょう」よりも、支援者が実際に「かして」と言って見せる方が分かりやすいこともあります。
モデリングは、言葉だけではありません。挨拶、片付け、順番を待つ姿勢、友達への声かけ、困った時に助けを求める行動も、支援者が見本になれます。子どもは、大人が思っている以上に、大人の動き方や言い方を見ています。
技術2: タイムディレイは「待つことで引き出す」支援
タイムディレイとは、子どもが何かを要求している場面や、次に何をすればよいか分かりそうな場面で、支援者がすぐに手助けせず、数秒待つ技術です。目安としては3〜5秒です。
この「待つ」は、ただ黙って放置することではありません。子どもの近くにいて、表情や姿勢で「見ているよ」「あなたが動き出すのを待っているよ」と伝えながら待ちます。
たとえば、散歩の時間に玄関で靴を出す場面を考えます。いつもなら支援者が「靴を履こうね」と言いながらすぐに履かせているかもしれません。そこで一度、子どもの前に靴を置き、少し待ってみます。子どもが靴に手を伸ばしたら、「自分で履こうとしたね」と反応し、必要な部分だけ手伝います。
タイムディレイが有効なのは、子どもに「自分から始める余白」を作れるからです。支援者がすぐに指示や手助けを出すと、子どもは大人の合図を待つようになりやすくなります。もちろん、安全面や強い混乱がある時に無理に待つ必要はありません。大切なのは、成功できそうな場面で、ほんの少し大人の手を遅らせることです。
よくある失敗は、待つ時間が長すぎることです。新人指導員が「自発性を引き出そう」と考えすぎると、子どもが困っているのに支援が遅れることがあります。タイムディレイは、子どもを試すための沈黙ではありません。3〜5秒待って反応がなければ、モデリングや指差し、絵カードなど、その子に合ったプロンプトを出します。
プロンプトとは、子どもが成功しやすいように出す手助けのことです。NBDIでは、まず子どもの自発的な反応を待ち、必要になったら最小限のプロンプトを出し、成功したら自然な結果で強化します。この流れを意識すると、待つことが支援になります。
技術3: インシデンタル・ティーチングは「その瞬間を逃さない」支援
インシデンタル・ティーチングは、日本語では偶発的指導法と呼ばれることがあります。子どもが何かに興味を示した瞬間をきっかけに、少しだけ豊かな行動や言葉を教える方法です。
「偶発的」と聞くと、たまたま起きた出来事に反応するだけのように見えるかもしれません。しかし実際には、支援者の準備と判断が必要です。子どもの興味を見つけ、反応を待ち、少し高い表現を促し、自然な結果で返す。これらを短いやりとりの中で行います。
基本の流れは、次の4ステップです。

1つ目は、子どもが働きかけることです。指を差す、手を伸ばす、声を出す、視線を向けるなど、子どもから何らかのサインが出ます。
2つ目は、支援者が少しだけ促すことです。すぐに要求を叶えるのではなく、「ボールが……?」「どうする?」のように短く促したり、期待して待ったりします。
3つ目は、子どもが応答することです。言葉で言う場合もあれば、身振り、カード、発声、視線などで応答する場合もあります。その子の発達段階に合わせて成功の基準を決めます。
4つ目は、自然な結果で強化することです。子どもが「とって」と言えたなら、ボールを取って渡す。カードで「もう1回」を伝えられたなら、もう一度活動を行う。ここで行動と結果がつながるため、子どもは「伝えると世界が変わる」と経験できます。
たとえば、自由遊びで子どもが棚の上のボールを指差して「あ」と言ったとします。支援者はすぐに取るのではなく、「ボールだね。ボール、どうする?」と短く促します。子どもが「とって」と言えたら、「ボール、とってだね」と返して、すぐに渡します。まだ言葉が難しい子なら、手を伸ばす、カードを渡す、支援者の「とって」を一部真似るだけでも成功として扱えます。
「完璧な言葉」より「伝える行動」を育てる
NBDIの実践では、子どもの反応をどこまで成功と見るかが重要です。
たとえば、大人が「ジュース、ちょうだい」とモデルを示した後、子どもが「じゅ」と言ったとします。この時、「違う、ジュースちょうだいでしょ」と言い直しを求めすぎると、子どもの伝える意欲が下がることがあります。
最初の目標が「要求する経験を増やす」なら、「じゅ」でも十分に意味のある反応です。支援者は「ジュースね」と自然に言葉を広げて返し、要求を叶えます。これを続ける中で、少しずつ「じゅーす」「ちょうだい」「ジュースちょうだい」へ広げていきます。
ここで大切なのは、支援者が目標を明確にすることです。今は発音の正確さを育てたいのか。要求する自発性を育てたいのか。二語文に広げたいのか。目標が違えば、成功の基準も変わります。
現場では、どうしても「正しく言わせる」ことに意識が向きやすくなります。しかし、コミュニケーションの土台は「伝わった」という経験です。子どもが何かを伝えようとした時、その行動を見逃さず、分かりやすく返すことが、次の発達につながります。
NG/OKで見るNBDIの関わり
NBDIは自然な関わりを使うため、支援者の癖が出やすい方法でもあります。次のような違いを意識すると、現場で使いやすくなります。
| 場面 | NGになりやすい関わり | OKに近い関わり |
|---|---|---|
| 子どもが手を伸ばす | すぐに渡して終わる | 少し待ち、視線・声・カードなどの反応を引き出す |
| 子どもが真似できない | 何度も同じ指示を繰り返す | もっと簡単なモデルに下げる |
| 子どもが黙っている | 何も言わないから失敗と見る | 身振りや視線も反応として見る |
| 活動が楽しい | 遊びだけで終わる | 伝える、待つ、見る、真似る機会を1つ入れる |
| 支援者が待つ | 長く待ちすぎて困らせる | 3〜5秒待ち、必要なら最小限の手助けを出す |
この表で特に大事なのは、「楽しい活動を学びに変える」という視点です。NBDIでは、子どもが楽しいと感じているからこそ、学びの機会が生まれます。楽しい活動を止めて課題にするのではなく、楽しい活動の中に、ほんの少し支援の意図を入れます。
個人ワーク: 明日の場面で1つだけ試す
次のワークは、研修ではグループで考えやすい内容ですが、ブログ読者が一人でも取り組めるように個人ワークとして整理します。
明日の現場で、子どもが興味を示しそうな場面を1つ選んでください。自由遊び、散歩、おやつ、片付け、着替えなど、どの場面でも構いません。
次の順番でメモしてみましょう。
- 子どもが興味を示しそうな物や活動は何か
- その場面で引き出したい行動は何か
- モデリング、タイムディレイ、インシデンタル・ティーチングのどれを使うか
- 子どもが少しでも反応した時、どんな自然な結果を返すか
たとえば、散歩中にタンポポを見つける場面なら、子どもの指差しをきっかけに「たんぽぽ」「きれい」「見る」「ふわふわ」などの言葉を広げられます。子どもが指差したら、「たんぽぽだね」とモデルを示す。少し待って子どもの反応を見る。子どもが声を出したり、もう一度見たりしたら、一緒に近づいて観察する。これだけでも、自然な文脈での学びになります。
NBDIは、支援者の「見る力」を育てる
NBDIの実践で最も大切なのは、特別な教材をたくさん用意することではありません。子どもの興味、表情、視線、手の動き、小さな声をよく見ることです。
子どもが何かを伝えようとしている瞬間は、思っているより短いものです。そこに気づける支援者は、強い指示を出さなくても、子どもの自発性を引き出せます。
モデリングで見せる。タイムディレイで待つ。インシデンタル・ティーチングで、子どもの働きかけを少し豊かな表現につなげる。この3つを意識すると、自由遊びや生活場面が、療育としての意味を持ち始めます。
次回は、NBDIとも深く関係するコミュニケーション支援を扱います。「話せるかどうか」だけでなく、「伝わる手段をどう育てるか」という視点から、ABAにおける言語行動、AAC、マンドの支援を整理します。


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